この5月には、鉄道・運輸機構の藤田耕三理事長が国土交通省を訪問し、国交大臣に対して「北海道新幹線新函館北斗〜札幌間の2030年度末開業は『極めて困難』」と報告した。新しい開業時期は「数年単位」で延期するとも説明。岩塊が見つかった影響などにより一部工区で遅れがあり、今後、工期短縮策を講じても2030年度末の開業は難しいとした。
報告を受け、さまざまな反応がみられた。北海道の鈴木直道知事は「地元自治体や関係者らが一丸となって進めてきた一大プロジェクトであることを踏まえると、(一部略)われわれ地元関係者にとっては大変遺憾といわざるを得ない」などとコメントを発表。秋元克広札幌市長も「開業が遅れることになれば、まちづくりや民間投資への影響は広範・甚大だ」などと影響を危惧した。
報告を受けて札幌市内で開いた北海道新幹線の整備に関する関係者会議でも、鉄道・運輸機構が工事の遅れと2030年度末の北海道新幹線札幌延伸開業が極めて困難になったと報告。多くのトンネルでは掘削が順調に進んでいるものの、岩塊が見つかった羊蹄トンネルなど「3つの箇所が全体工程のボトルネック」と説明。沿線自治体の首長らも、不安な胸中を明かした。一部首長からは「がっかり」との声もあった。それほど、沿線の市町村で新幹線延伸への期待が高まっていたのだ。
北海道新幹線の延伸を見据え、終点となる札幌駅では再開発が進む。例えば、1978年に開業し、多くの市民らに親しまれてきた札幌駅隣接の商業施設「エスタ」が2023年8月末に閉店している。ただ、この地に建設予定の再開発ビルは、資材価格や人件費の高騰が影響して完成の延期を検討している状況だ。工費が1000億円を超えることが想定されることから、再開発ビルの高さも低くなる予定である。
北斗市も新駅周辺の整備を進めてきた。しかし、空きテナントなどもあり、駅前の区画もあまり埋まっていない。背景には新函館北斗駅ではなく、同駅から電車で15〜20分程度の函館駅に向かう観光客らが多いとの話もある。
新函館北斗駅から札幌駅までの沿線自治体も困惑している。新小樽駅(仮称)の開業を予定している小樽市の迫俊哉市長は、5月の定例会見で「北海道新幹線の開業効果は、札幌まで延伸されて初めて享受できる。その効果が発揮されるのが先送りになることは、少なからず各沿線自治体にも影響があるものと思っている。まちづくりの関係もあるため、できるだけ早い時期に開業時期を示してほしいという要望活動を重ねていきたい」などと述べた上で、開業時期に合わせて再開発を進める考えを示した。新小樽駅(仮称)と小樽駅は約4キロ離れており、市は「天神地区交通戦略案」で新しいバス路線を検討するなどの動きがある。
新八雲駅(仮称)の周辺整備計画では、今後の人口減少なども踏まえて必要な機能をコンパクトに整備、農業に配慮し寄与するという方針だった。計画では現状の約5%となる約4.1万人の観光客増加、新八雲(仮称)〜札幌間の定期利用が2倍に増えることを見込んでいた。
このように、札幌延伸の延期によって、さまざまな影響が及んでいる。一部報道では、2025年1月をめどに札幌延伸開業の新たな目標を設定するために調整が進んでいるとの話もある。ただ本稿執筆時点(2025年1月3日)で、将来の開業時期は明らかになっていない。国交省の有識者会議も議論を続けているが、将来の開業目標は「早急の開業」としているのみだ。札幌延伸開業の延期は、沿線自治体、そして北海道にも大きな影響を及ぼしている。
小林英介
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。阪神タイガースをこよなく愛しており、体は酒でできている。「酒はライフラインだ」を合言葉に、道内や東京などで居酒屋めぐりをするのがライフワーク。
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