OpenAI「独自ブラウザの開発」を検討 どんなネットになるか、想像してみた

» 2025年01月09日 08時30分 公開
[湯川鶴章、エクサウィザーズ AI新聞編集長]
ExaWizards

 OpenAIが独自ブラウザの開発を検討中という報道があった。なぜOpenAIはブラウザを開発しようとしているのか。OpenAIならどのようなブラウザを開発するだろうか。

 もしOpenAIが本当にブラウザを開発してくるのなら、AIネイティブなブラウザになるのだと思う。AIネイティブになると、ブラウザではどのようなことができるのだろうか。いろいろ考えてみた。

OpenAIが独自ブラウザを開発したら、どんなインターネットが誕生するだろうか?(画像:ゲッティイメージズより)

 まずこれまでのブラウザは、単なる情報収集やサービス利用の窓口にすぎなかった。だが、AIがブラウザの中核を担う「AIネイティブブラウザ」が登場すれば、インターネットの使い方は根本的に変わる。検索をする、情報を集める、タスクをこなす。これらが一つの流れの中で、自動的に完結する未来が訪れるかもしれない。

 例えば、ネットでレストランを探して予約する手間。通常なら検索して、口コミを読んで、空席を確認して予約フォームに入力する。これがAIネイティブブラウザなら、「明日の夜、家の近くでイタリアンを予約して」と伝えるだけで、全てが完了するだろう。

 しかも、過去の好みや現在のスケジュールを考慮して、最適な選択肢を提示してくれる。インターネットがまるで個人の秘書のようになるわけだ。

APIやRPAを越える進化

 AIネイティブブラウザは、これまでの連携ツールに頼らない独自の道を切り開くことになると思う。従来、Webサービス同士同士をつなぐには「API」(アプリケーション・プロセス・インターフェース)と呼ばれる仕組みが必要だった。

 これは、サービスが公開する「取扱説明書」のようなもので、外部のアプリやツールがサービスを操作できるようになるものだ。だが、APIの構築や対応には時間がかかり、開発者向けの作業が不可欠だった。

 一方で、APIを持たないサービスを操作するためには「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)が使われることが多い。これは、人間が画面を操作する動きを模倣し、自動化する技術だ。しかし、RPAはブラウザの見た目が変わるだけで動かなくなることもあり、安定性の課題がある。

 AIネイティブブラウザは、この両方を一歩先へ進める。自然言語を理解する能力と、画面の内容を自ら解析する能力を持つため、APIもRPAも不要になる可能性がある。「Webサイトを読んで、必要な情報を集め、さらに別のサービスにその情報を登録する」といった複雑なタスクを、AIが独自に処理できるのだ。

全てがシームレスに連携する未来

 AIネイティブブラウザが実現する最大の魅力は「シームレスなサービス連携」だ。例えば、現在はスケジュールを管理するにはGoogle カレンダー、仕事のタスクはTrello、連絡はSlackといったように複数のサービスを個別に使い分ける必要がある。しかし、AIネイティブブラウザは、これらのサービスを一つのプロセスの中で統合する。

 「新しいプロジェクトを作りたい」とAIに頼めば、Trelloにタスクを登録し、Google カレンダーに締め切りを設定し、Slackでチームメンバーに通知する――これが一度の指示で実行されるのが未来の姿だ。ユーザーはサービスごとの使い方を覚える必要もなく、AIが全てを最適化してくれる。

インターネットの「万能秘書」になるブラウザ

 AIネイティブブラウザは、単なるWeb閲覧の道具を越え、「万能秘書」のような役割を果たすようになるだろう。仕事のタスク管理だけでなく、日常生活のあらゆる場面で役立つ。ショッピング、旅行の計画、請求書の処理。これらが全て自動化され、しかも個々のサービス間での情報共有も完全にスムーズになる。

 例えば「週末の旅行プランを立ててほしい」と依頼すると、AIはフライトや宿泊施設を調べ、現地での観光地やレストランの候補をリストアップしてくれる。そして、プランが確定すれば、予約まで一気に進める。これまで人が時間をかけて行ってきたことが、AIによって瞬時に処理される時代が目の前に迫っている。

未来の課題と可能性

 もちろん、課題もある。まずは、サービス間のデータや仕様の標準化が不可欠だ。また、AIがユーザーのプライバシーをどのように守るのか、透明性が求められる。だが、それらの壁を乗り越えれば、AIネイティブブラウザはインターネットを再定義する存在となる。

 サービスを使いこなすのではなく、ブラウザに全てを任せる。そんな未来はもう遠くない。AIが導く新たなインターネット体験に、期待が高まる。

本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「AIネイティブブラウザが変えるインターネットの使い方」(2024年12月14日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


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