AI時代の「マンハッタン計画」と呼ばれるStargateプロジェクトが米国で立ち上がった。
Stargateプロジェクトは、データセンターや、半導体、電力、水道などのAI技術の進展のためのインフラを官民一体となって立ち上げるというプロジェクトで、ドナルド・トランプ大統領の就任直後にホワイトハウスで発表された。このプロジェクトは、今後4年間で総額5000億ドル(約79兆円)の投資を計画しており、初年度には1000億ドル(約15.8兆円)の投資が予定されている。
OpenAIとソフトバンクはそれぞれ190億ドルを出資し、各社がStargateの40%の株式を保有。OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏はAI技術の専門知識を提供し、ソフトバンクの孫正義氏は資金調達を担当、Oracleのラリー・エリソン氏がインフラ構築を監督するという。また技術パートナーとして、Microsoft、NVIDIA、Arm Holdingsが参加している。
総額5000億ドル(約79兆円)と言われてもピンとこないので、この5000億ドル(約79兆円)という投資規模がどれくらい大きなものなのか、過去の大型国家プロジェクトと比較してみた。
これらを見ても、かなりの大規模な計画であることが分かる。
なぜここまでの投資が必要なのか。なぜ官民一体となる必要があるのか。
このプロジェクトに賛成するシリコンバレーの有力者たちは、これまで中国のAI技術の脅威をその理由に挙げていた。技術的には米国がいまだに世界をリードしている。ただ中国はものすごい勢いで追い上げてきている。
直近のAI業界における最大のブレークスルーは、論理的思考といわれている。これまでのAIが、大量のデータを丸暗記し、質問を受けると深く考えずに丸暗記した内容を直感的に答えているようなものだとすると、論理的思考能力を持ったAIは、答える前にしっかりと考えるようになった。
この論理的思考能力を持ったAIモデルが、2024年9月に発表された「OpenAI o1」というモデルだ。これでOpenAIが競合他社に一気に差をつけたといわれる。ところがこのほど中国のDeepSeek社からリリースされた「DeepSeek-R1」は、OpenAI o1に匹敵するような性能だった。時間差わずか3か月のところまで、中国のAI技術が追い付いてきたわけだ。
技術者の能力に大きな差がなくなってきているわけで、そうなれば競争を左右する要因は電力や計算資源といったインフラに移行する。AIモデルを構築するには、膨大な計算資源が必要であり、これを支えるインフラが技術競争の勝敗を決める鍵となる。米国はこの点を認識し、Stargateプロジェクトを通じてインフラ強化に取り組もうとしているわけだ。
中国への対抗意識だけではない。AIインフラはこれからの社会にとって非常に重要なものになる。NVIDIAのCEO、ジェン・スン・ファン氏はYouTubeで次のように語っている。
「既にNVIDIAの収益の40%以上が推論時の半導体利用によるものだ。AIが今後ますます連鎖的な論理的思考をするようになることで、推論からの収益が1万倍、いや10億倍の規模に達することになる。このことにまだ多くの人は気付いていない。これはまさに知能の生産という産業革命なのだ」
この発言は、AIの成長を支える基盤としての計算資源がいかに重要かを示している。推論プロセスが進化し、より複雑で高度なAIモデルが主流となる中で、計算資源の需要は今後何万倍、何億倍にも増大するという。これほどまでの計算資源を用意するには、先進的なデータセンターや効率的な電力供給システムといったインフラの整備が欠かせないわけだ。
さて問題は日本だ。AIインフラを整備することで、米国のAIは大きく進化し、それに伴って米国経済も大きく進展することだろう。そのAIインフラ整備に日本企業、孫正義氏率いるソフトバンクが参画している。
ソフトバンクを通じて米国経済成長の恩恵を日本経済も受けることになるのだろうか。日本もこのプロジェクトに刺激を受けて、国内のAIインフラ構築に乗り出すのだろうか。それとも時代の波に乗り遅れたまま進むのだろうか。
本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「AI競争の新時代:Stargateプロジェクトとその衝撃」(2025年1月24日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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