広がる「節約疲れ」ムード、消費行動はどう変わる?インフレと物価高の行方

» 2025年02月10日 09時00分 公開
[ITmedia]

 英国の市場調査会社、Mintel Groupの日本法人であるミンテルジャパン(東京都千代田区)は、2024年11月に発刊したレポート「インフレと消費者 -日本- 2024年」を踏まえ、日本における「節約疲れ」による消費行動の変化と、ビジネスチャンスついて発表した。

日本における「節約疲れ」はどのように消費行動を変えるのか?(画像:ゲッティイメージズより)

世界を取り巻くインフレと物価高

 2021年半ばから大規模なインフレが世界を席巻している。その背景には、コロナ禍の収束と共に消費需要が急拡大した一方で、世界的なサプライチェーンの乱れやウクライナでの紛争に起因する原油や一部の穀物の不足により、物資の供給不備が発生したことがある。

 その結果、2022年には世界各国で過去数十年間で最大のインフレ率を記録。エネルギーをはじめとする物価の高騰は世界中の消費者の生活を圧迫した。

世界のインフレ率(画像:以下、プレスリリースより)

 一方、2023年以降のインフレ率は緩和傾向にシフトしている。国際通貨基金(IMF)のデータによると、世界の総合インフレ率(食品価格、エネルギー価格を含む物価全体の上昇率)は2022年に8.73%でピークを迎えたのを境に、2023年には6.8%、2024年には5.9%、2025年には4.5%と鈍化を続ける見通しだという。これは、インフレ率が世界各国におけるターゲット範囲内に近づいていて、物価が安定傾向にあることを示している。

 世界経済は安定化の兆しがみられるが、物価は依然として高止まりが続いている。ミンテルのグローバル消費者調査によると、仏、独、イタリアなどの国では、2022〜2024年で経済的に逼迫(ひっぱく)している消費者の割合が増加。オーストラリアや韓国でも同様の傾向だ。

 一方、米国は経済的に逼迫している消費者の割合は比較的低いが、負債を抱える家庭の多さを鑑みると、金利引き上げの継続により、今後家計状況が悪化する人の増加が懸念される。

世界の消費者の現在の経済状況について

「節約疲れ」の日本 消費行動はどう変わる?

 日本でも海外諸国と同様にインフレ率は下降の傾向にあり、消費者物価指数(生鮮食品・エネルギーを除く)は2023年にピークの+3.9%に達した後、2024年度と2025年度には+1.9%に落ち着くと予想されている。

 インフレが和らいでいるとはいえ、20年以上も前年比の物価上昇率が0%台から-1%台が継続する緩やかなデフレが続いてきた日本では、未だに物価は高水準にあるといえる。

インフレに対する懸念度合い

 ミンテルが実施した「インフレに対する懸念の度合い」調査によると、買い物をする際にインフレを実感している割合は、昨年と同様で約4割に上った。インフレの長期化に備えて節約を心がけている消費者も昨年同様で約3割と、多くの消費者がインフレの影響を日々感じていることがうかがえる。

 「消費行動における重視点」調査では、日常の買い物では、昨年と同様に安価な商品の選択を重視している消費者が最も多くみられた。一方、昨年に比べて、出費の切り詰めにストレスを感じている人がわずかに増え、必需品でない商品を購入する人がわずかに増加していた。背景には、長引く物価高による「節約疲れ」が垣間見える。

消費行動における重視点

メリハリ消費とは

 総務省による家計調査では、2人以上の世帯の消費支出(生活費)の金額は、四半期連続で減少しており、消費者は節約に徹していることがうかがえる。特に20〜30代の若年層を中心に、将来的な経済的不安により、消費を控えて貯蓄に勤しむ傾向が強くあるようだ。

 一方で、最近ではコスパと類似したキーワードとして「メリハリ消費」が台頭している。これは、普段は節約して、本当に欲しい物や価値を感じられる物には思い切って出費する消費行動のことを指す。

 デロイトトーマツグループが実施した調査(2024年4月)によると、この数年で変化した価値観として、約30%が「節約とぜいたくのメリハリをつけるようになった」「コストパフォーマンス(コスパ、費用対効果)を重視するようになった」を挙げた。

 消費の対象となっているカテゴリーや商品に関しては、Yahoo!ショッピングが自社サイトの販売実績に基づき発表した「2024年上半期の7大トレンド」によると、「VR(バーチャルリアリティ)」「電動キックボード」を筆頭に、「スマート家電」や「メンズコスメ」などが挙げられた(参照:MarkeZine「Yahoo!ショッピング、2024年上半期の7大トレンドを発表 VRや電動キックボードなどが好調」より)。この結果から、日々の生活や余暇の時間の楽しさ、利便性、充実度を向上するための出費はいとわないことが分かる。

追加の裁量支出の優先順位

 では、この状況において消費者が商品やサービスに求める価値は何か。最も多く挙げられたのは「長持ちする・耐久性がある」だった。他には、日々の生活に楽しみ・幸せをもたらしてくれることが多く挙げられており、日常生活における余暇や気晴らしの重要性がうかがえる結果となった。また、身体と心の健康を重視する傾向も引き続きみられたという。

商品・サービスに求める価値

 ミンテルは調査を踏まえ、「長引くインフレにより、消費者は日々節約を意識しながら暮らす中で、出費に気をつけるストレスをたまには忘れ、楽しみと満足感を覚えるような体験を欲するようになると考えられる。レジャーや気晴らしのための消費以外にも、消費者が払うお金以上の満足感やお得感を感じられるような消費体験を提供することで、出費に慎重な消費者の心と財布に訴えられる」とコメントしている。

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