VISAが注力する「A2Aサービス」とは? 米国でも市場参入する理由

» 2025年02月14日 12時30分 公開
[Lynne MarekPayments Dive]
Payments Dive

 決済ネットワーク大手の米Visaは、カード決済の優位性を維持しつつ、A2A(Account to Account、仲介業者を介さず直接資金を受け渡す決済手段)サービスを強化し、市場でのさらなる事業拡大を目指している。

 Visaは、カードネットワークを超えた決済フローにおけるビジネス獲得を狙い、A2A決済サービスを積極的に展開している。

Visaはなぜ「A2A市場」に参入するのか

 米国最大のカードネットワークであるVisaは、2025年初頭に英国でA2Aサービスを開始する予定であり、その後、欧州やその他の地域にも順次拡大する。同社CEOのライアン・マクイナーニー氏が、2024年度第1四半期決算説明会で発表した。同社は2024年9月にも、英国でのA2Aサービス計画について言及している。

 「私たちは依然として、2025年初頭のVisa A2Aのローンチに向けて順調に進めています」とマクイナーニーCEOは述べた。

 「発表以来、英国のクライアント、パートナー、規制当局と数多くの有意義な対話を重ねてきました。これは、私たちが常に行っていることです」

 マクイナーニーCEOによると、A2Aサービスの初期段階では、加盟店と消費者向けの請求書払いサービスに特化するという。同社は、決済業務におけるルールやプロセスに対するニーズがあることを認識しており、Visaの強みをこの分野に生かせると考えている。

 「英国での請求支払いサービスはあくまで始まりに過ぎません。しかし、Visaの持つ機能をA2A決済に導入することで、当社のクライアントやパートナーに大きなメリットをもたらすと確信しています」と、マクイナーニーCEOは述べた。

 Visaのこの動きが注目されるのは、同社が従来のカード決済に依存せず、新たな決済サービスの開発に力を入れているためだ。米国や他の地域ではカード市場の成長が成熟しつつあり、一部の国ではすでにカード決済からデジタル決済へ移行が進んでいる。米国でも、カード決済に依存しない決済手段を導入する消費者が増えてきている。

photo VisaはA2Aサービスに注力している(提供:ゲッティイメージズ)

 この決済は「ペイ・バイ・バンク」(Pay-by-Bank)とも呼ばれ、カードを介さずに銀行口座間で直接資金を移動させる方式である。カードの加盟店手数料を回避したい加盟店にとって特に魅力的な選択肢となっている。

 Visaの幹部によると、同社はすでに欧州でこのペイ・バイ・バンクサービスを拡張しており、米国でも提供を準備中だという。この動きを支えているのが、2022年にVisaが買収した欧州のオープンバンキング企業「Tink」である。Tinkは、銀行や加盟店、フィンテック企業が資金を移動させるための技術を提供しており、Visaはこの技術を活用し、米国市場向けにA2A決済サービスを試験運用していると、Visaの最高プロダクト・戦略責任者であるジャック・フォレステル氏が投資家向け会議で説明している。

 しかし、VisaはA2A市場において熾(し)烈な競争に直面している。この分野では、すでに他の決済事業者が市場拡大を進めているためだ。例えば、Zelle(Early Warning Servicesが運営)や、シカゴ拠点のスタートアップAeropayなども、A2A決済サービスを提供している。

 Visaの2024年度第1四半期決算によると、純利益は前年同期比5%増の51億ドル、売上高は10%増の95億ドルに達した。

 Visaは2023年12月31日終了の第1四半期決算において、決済総額が前年同期比9%増となったことを報告した。内訳として、クレジット取引量は6%増、デビット取引量は9%増となっている。

 決算説明会でアナリストが暗号資産の影響について質問した際、Visaのリス・スーCFOは、その重要性を軽視する発言をした。

 「暗号資産が当社の基盤となる成長要因に影響を与える方法はいくつかありますが、通常その影響が見られるのはクロスボーダー(国際間)eコマースの取引量です」とスーCFOは述べた。「最近の暗号資産市場の需要と取引活動を踏まえると、クロスボーダーeコマースに一定のプラス効果をもたらしているとは言えますが、その影響は比較的小さいものです」

 暗号資産市場にはステーブルコイン(法定通貨に連動したデジタル資産)も含まれており、Visaはこれらのデジタル資産の利用を支援するサービスを一部提供している。

 投資会社ウィリアム・ブレアのアナリストによると、Visaはステーブルコインの活用を通じて、カード決済以外の市場機会を広げる可能性があるという。

 「一部では、暗号資産全般および特にステーブルコインが既存の決済ネットワークモデルにとって脅威になると主張されていますが、私たちはそうは考えていません」と、ウィリアム・ブレアのアナリストは投資家向けレポートで述べた。

 「ステーブルコインは国際送金や一部のB2B取引でより広く活用される可能性がありますが、それがVisaの持つ安全で普及した決済インフラを置き換えることはないと考えています」

 2024年について、VisaのスーCFOは、多くの顧客との契約更新交渉に入る年であることを強調した。

 「今年は契約更新の大きな年であり、当社の決済取引量の20%以上が影響を受ける可能性があります。特に、今年前半には更新サイクルが本格化します」とスーCFOは説明した。

 また、VisaのマクイナーニーCEOは、同社の営業チームが近年、契約交渉において新たなアプローチを取っていると述べた。Visaは、カード決済だけでなく、より幅広いサービスの販売を強化しているという。

 「現在、クライアントとの会話はこれまでよりもはるかに多面的になっています」とライアン・マクイナーニーCEOは述べた。

 同氏によると、Visaのチームは、これまでの消費者向け決済の強固な関係を基盤とし、契約更新の機会を生かしてパートナーシップを拡大している。特に、新たな決済フローの機会や付加価値サービスの提供を通じて、パートナーとの関係を深化させ、新たな収益成長を生み出しているという。

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