攻める総務

なぜ、私が総務部に? 「キャリアアップが不安」の声にどう向き合うべきか?「総務」から会社を変える

» 2025年03月14日 08時30分 公開
[豊田健一ITmedia]

 「なぜ私が総務部に?」――過去、『月刊総務』で多くの総務パーソンを取材してきたが、他部署から総務に異動した人も数多くいた。そして、そのほとんどが冒頭のような愕然とした思いを抱えていたと告白した。

 「何をしている部門か分からない。ゆえに、総務部でどんなキャリアが積めるのか、全くイメージができない」といった発言もあった。

 こんなデータも存在する。月間総務で実施した、総務のキャリアに関する調査では「総務での経験を積めば積むほど、ずっと総務を続けたいという意向が増加する」ことが分かった。

総務の仕事に対する今後の意向は?(画像:月間総務「総務のキャリアについての調査」より)

 総務職を経験することで、その幅の広さ、奥の深さ、会社を変えることができる可能性に気付き、このまま総務で仕事をしていきたい思いが強くなっていくのだ。しかし、この境地に到達するのは時間がかかる。

 新たに異動してきた社員は、その時を待つよりも、退職してしまう方が早いかもしれない。先輩や上司は、総務の可能性と明るいキャリアについて、自分の言葉でしっかりと説明しなければならない。では、どのようなストーリーで説明すれば良いのだろうか?

「なぜ、私が総務部に?」への正解の回答は? 「何でも屋」をどう解釈すべきか

 総務に異動する人が、総務に持つイメージはたいてい「何でも屋」というところだろう。何をしているか分からないがゆえの何でも屋である。この何でも屋の解釈によって、総務は天国にも地獄にもなるのだ。

  • 地獄:「なんでもやらなきゃならない。何がくるか分からない、不安でしょうがない」
  • 天国:「何でもできるんだったら、いろいろなことにチャレンジできる。いろいろな経験が積める」

 総務の仕事の領域は無限だ。会社に良い効果をもたらすなら、従業員の幸せにつながるのなら、何を実行してもいいのだ。そして、自分の経験値が増える、スキルが身に付く。会社から与えられるキャリアではなく、自らキャリアを創ることができるのが総務なのである。

 何でも屋というイメージに引っ張られ、雑用係のように誤認されることもある総務の仕事だが、実は専門性が求められる部署でもある。例えば、ファシリティマネジメント、リスクマネジメント、ウェルビーイングなど業務を進めるにあたって専門用語が飛び交う仕事もある。多くのサプライヤーとのやり取りが発生する大規模プロジェクトになることも多々ある。プロフェッショナルたちを従え、目標を達成するには、専門性がないと遂行できない。

 その専門性を磨いていけば、他社での活躍もコンサルタントとしての独立も目指せる。プロフェッショナルへのキャリアが目の前に開かれているのも総務という職種の特徴だ。自分のキャリアを高めるために、新たな仕事を創る。自らのやる気さえあれば、会社の力を借りながら新たなことをいくらでも学べるのが総務である。それも「何でも屋」がゆえに、多くの選択肢の中から選べるのだ。自律的にキャリアを選択できるのだ。

「何でも屋」の活用

 「何でも屋」であることは、常にいろいろな仕事が飛び込む状態というわけだ。総務は会社のフェーズに合わせて仕事が変わっていく特性を持っているため、前例のない仕事を任されることもある。

 常にいろいろな仕事に向き合うことは、マルチタスク処理の能力が身に付く。前例のない仕事を担当することは新しい経験を積めるのはもちろんのこと、案件の妥協点や落としどころを探る能力も得られる。

 何でも屋として、何でも対応できること自体が立派な専門性となっていくのだ。「とりあえず総務に」と仕事を振られることは、雑用係だからではなく、他では処理できないからとも考えられる。何でも屋の能力がある証明でもあるのだ。

 総務の仕事は、総務部内だけで完結しないことが多い。外部のパートナーの協力が不可欠だ。何でも屋として多くの仕事が経験できれば、その分、多くの外部パートナーとのネットワークも構築できる。そこから刺激や学びを得る機会も増えるだろう。

先輩として早めに伝える

 総務は見方を変えると、成長できる職種であり、なりたい自分を目指すことができる職種なのである。総務部に異動した人が抱えるキャリアに対する不安は、先輩が自らの経験に照らし合わせて取り除く必要がある。

 このマインドチェンジができれば、知識がなくても、スキルが足りなくても、意欲的に仕事ができるのではないだろうか。それが当人のキャリアのためでもあるし、総務部において早期に戦力となることであろう。

 すでに総務部に異動してきて長い読者の方々も、今一度「何でも屋」の解釈を「何でもするではない。何でもできるのだ」という方向に変えてみると、目の前の世界が変わってくるかもしれません。

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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