リテール大革命

イオンを凌駕 ドラッグストアが“郊外の覇者”になったワケMerkmal(1/2 ページ)

» 2025年05月11日 08時00分 公開
[昼間たかしMerkmal]
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 地方の風景と聞くと、多くの人がイオンを思い浮かべるだろう。しかし、実際に地方を巡ると、そのイメージが誤りであることに気付く。現在、地方で最も存在感を放っているのは、乱立する「ドラッグストア」だ。

 この変化は、地方のモビリティ環境の変遷と密接に関係している。かつて地方の買い物の中心は、駅前商店街や大型ショッピングモールだった。しかし、モータリゼーションの進展により、自家用車での移動が一般化し、広い駐車場を備えた郊外型店舗が支持されるようになった。その流れのなかで、スーパーマーケットやホームセンターと並び、ドラッグストアが新たな商業の主役として台頭した。

イオンに代わりドラッグストアが地方で存在感を放っている。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 ドラッグストアは、郊外の幹線道路沿いや住宅街の入り口など、自動車でのアクセスが容易な場所に集中して出店する傾向がある。駐車場の完備率も極めて高い。その結果、近隣住民だけでなく、車で数キロ圏内からの来店客も取り込める。

 さらに、地方では公共交通の衰退が進み、高齢者や免許返納者の移動手段が限られている。こうした状況に対応するため、多くのドラッグストアが調剤薬局を併設し、地域のヘルスケア拠点としての役割も果たすようになった。処方薬の受け取りに加え、食品や日用品の購入がワンストップで可能となり、「日常の移動距離を最小限に抑えたい」と考える消費者にとって、ますます欠かせない存在となっている。

 その影響力は、数字にも表れている。イオンの全国店舗数が1万7887カ所であるのに対し、ドラッグストアは381社2万3041店舗(日本チェーンドラッグストア協会、2023年度調査)にまで拡大。売上高では、イオンが9兆5535億円であるのに対し、ドラッグストア業界全体で9兆2022億円と、ほぼ肩を並べる規模に成長している。

ドラッグストアのビジネスモデルとは?

 では、ドラッグストアはどのようなビジネスモデルで急成長を遂げたのか。一見すると、ドラッグストアは薬や化粧品を専門に扱う小売店のように思える。しかし、それは過去の概念にすぎない。日野眞克氏の『ドラッグストア拡大史』(イースト新書 2021年)では、ドラッグストアの進化について次のように述べられている。

日本でもっとも遅れて登場し、平成時代の後期に大成長した「総合業態」である

 その成長を支えるのは、巧妙な収益構造だ。この構造は「低原価率商品」「高利益率商品」――の組み合わせによって成り立っている。具体的には、日用品や食品を非常に低い利益率で提供することで、顧客を店舗に引き寄せている。

 食品の粗利率は15.1%と、「コンビニの半分以下」で、場合によっては原価ギリギリや赤字覚悟で販売することもある。この戦略は一見非効率的に思えるが、実際には緻密な計算に基づいている。

 なぜなら、店舗に引き寄せた顧客に対して、医薬品や化粧品などの高利益率商品を提供することで、全体としての収益を確保しているからだ。市販薬の場合、大手チェーンでは販売価格の60〜70%が店舗の取り分となっている。また、化粧品の原価率は20%未満であり、非常に高い利益率を誇る。

 この収益構造によって、ドラッグストアは食品や日用品を安価で提供しながらも、全体として高い収益性を実現している。

 重冨貴子氏の論文「ドラッグストア業態の動向と商品構成の変化、および、企業戦略の方向性―ドラッグストア業態の展望と課題―」(『流通情報』No.556)によると、2020年の売上構成比では、医薬品・化粧品関連カテゴリーが市場規模の約半分(49.0%)を占めており、2012年以降は食品・酒カテゴリーの構成比も増加し、2020年には約3割(27.8%)に達している。

 食品分野への進出は、ドラッグストア業態そのものを大きく変えつつある。特に注目すべきは、従来スーパーマーケットの専門分野とされていた生鮮食品への参入だ。2012年、クスリのアオキが一部店舗で生鮮食品の販売を開始した後、各社は青果や精肉、さらには鮮魚まで取り扱う店舗を展開している。2022年3月時点では、ドラッグストア上場企業12社中9社が生鮮食品を取り扱っている。

 さらに、一部の企業は地域のスーパーマーケットを買収し、食品販売のノウハウを取得したり、生鮮食品をフルラインで取り扱う大型店舗を出店したりするなど、「医薬品・化粧品の専門店」から「食品も取り扱う総合業態」への進化を遂げている。この業態転換により、特に地方ではドラッグストアが日常の買い物の中心的な存在となりつつある。

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