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なぜ今、ホテル経営にAIが不可欠なのか “泊まる”を超える宿泊拠点の未来像(1/2 ページ)

» 2025年05月14日 08時00分 公開
[佐藤匡倫ITmedia]

 宿泊施設は、泊まる場所から、地域と人をつなぎ、まちの価値を創出する拠点へと進化している──。

 スポーツを軸にした新しいまちづくりが進む地域として注目されているのが、北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」があることで知られる北海道北広島市だ。3月、JR北広島駅前に「エスコンフィールドHOKKAIDOホテル 北広島駅前」が開業した。駅直結という好立地で、単なる宿泊施設にとどまらず、観光・ビジネス・地域交流を融合させた新たな地域拠点としての期待が高まっている。

 ホテル運営を担うのは、宿泊業界のDXを先導する株式会社SQUEEZE(北海道北広島市)。代表取締役CEOの舘林真一氏は、「北広島市が、スタジアムなどのスポーツ施設のハード面の整備と、それを活用した地域交流・観光・運営体制といった“仕組み”の両面から、スポーツを軸にしたまちづくりを進めています。当社は、特にその“仕組み”づくり、つまり運営のデジタル化を担っています」と語る。

 自社開発のクラウド型宿泊管理システム「suitebook」は、ホテルの利用状況により、価格やサービスを変動させ、収益を最大化させるレベニュー・マネジメントからフロント業務、人員配置の最適化まで、AIを活用した一元管理システムだ。

舘林真一(たてばやし・しんいち) SQUEEZE CEO

 ホテル開業に向けたプロジェクトでは、都市再開発を推進する日本エスコンや、北海道日本ハムファイターズの元選手で、ZENSHIN CONNECT(札幌市)代表の杉谷拳士氏も参画している。

 地域・行政・企業が一体となった共創を目指す中で、日本エスコン上席執行役員の加藤嘉朗氏は「ホテルは開業された時点で完成された施設とは捉えておらず、お客さまの声をもとに改善を重ね、満足いただける施設に成長させていきたい」と語る。

加藤嘉朗(かとう・よしろう)日本エスコン 上席執行役員

 一方、杉谷氏は「選手時代に多くの方々に支えられた経験から、人とのつながりの大切さと未来への挑戦をキーワードに地域と子どもたちとともに新たな価値をつくっていきたい」と述べた。

杉谷拳士(すぎや・けんし) ZENSHIN CONNECT 代表

 舘林氏・加藤氏・杉谷氏の単独インタビューを通じて、テクノロジーと共創の力で“宿泊”の概念を再構築しようとする取り組みと、地域と連動して価値を創出する新たなまちづくりについて探る。

人とAIが創る 新時代のホテル運営戦略

 suitebookは、従来型のシステムの枠を超え、宿泊者の利用状況から運営コストを計算しながら、価格設定や業務運営を変動させ、収益を最大化させるレベニュー・マネジメントからフロント業務、人員配置まで、AIを活用して一元的に運用できるシステムだ。

 舘林CEOは「ホテル運営は、基本的に需要予報から始まります。滞在人数や日数によって運営体制も変わってくるからです。飲食業や小売業では、例えば、雨の日には客足が減るといった需要予測が、AIによってかなりの精度で活用されています。ただホテル業界には、まだその領域に伸びしろがあると思っています」と語る。

 さらに自社システムが担うAI活用の意義について「しっかりとしたフォーキャスト(業績目標管理)ができれば、適切な人員配置や価格調整が可能となります。これはまさにレベニュー・マネジメントの領域であり、suitebookはその中核を担っています。宿泊予約は24時間動いている一方、収益や価格調整の担当者は、24時間は対応できません。人では対応できない時間にもAIが自動調整してくれることで、収益性の向上にもつながります」と話す。

 ホテル運営におけるオペレーションの自動化と最適化が進むことで、サービス品質の向上と収益構造の強化が現場で着実に実現されつつある。SQUEEZEが目指すDXの姿は、単なる効率化にとどまらず、テクノロジーを起点にホテル運営全体の質を高め、より柔軟で持続可能な経営モデルへと発展している。

出典:SQUEEZE
出典:SQUEEZE

「泊まる」から「つながる」へ 新しい地域拠点のカタチ

 スポーツがまちの魅力を高める中核となっている北広島市において、交流と滞在の拠点として新たに誕生したのが「エスコンフィールドHOKKAIDOホテル 北広島駅前」だ。同ホテルは、スポーツ観戦や観光はもちろん、ビジネスや教育、イベントなど多様な目的で訪れる人々に、“滞在”を通じて地域とのつながりを生み出す場づくりに取り組んでいる。

 ホテルの運営を手掛けるのは、テクノロジーとリアルオペレーションの両面から観光DXを支援するSQUEEZE。同ホテルでは、北海道初となる交通系ICカードをルームキーとして利用できる「Suicaスマートロック」やセルフチェックイン・チェックアウトが可能であることに加え、前述したsuitebookを導入している。

 特別な滞在体験ができる演出として、同ホテルの11階には、北海道日本ハムファイターズの世界観を体感できる「ファイターズフロア」が設けられている。チームカラーをモチーフにした客室のほか、サイン入りユニフォームや球団の歴史を振り返る写真ギャラリー、限定アートが廊下に展示されており、野球ファンにとっても特別な時間を過ごせるようになっている。

 さらに、ホテル内には貸し切りサウナやコワーキングスペース、会議室、エスコンフィールドHOKKAIDOの球場や周囲の山々を一望できる屋上など宿泊者のニーズに応える設備が整えられている。

 舘林氏は「訪れる人々がボールパークだけでなく、まち全体、特に駅前にも足を運ぶようにすることが大切だと考えています。ビジネスからファミリーまで幅広い層が利用できるホテルが駅前にあることで、滞在時間や日数が延び、道内外の人々が地域と深く関わる機会が生まれます。ゲスト、観光客、地元の方々が飲食や宿泊を通じて交流する場となることで、まちに賑わいが生まれ、訪れた人がこのまちに愛着を持ち、再訪や移住につながる。それこそが、この場所で開業する意義だと考えています」と語る。

出典:SQUEEZE
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