この記事は、『就職氷河期世代の経済学』(永濱利廣著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
なぜ就職氷河期はこれほど長期にわたり、かつ多くの人が影響を受けることになったのでしょうか。
本来、歴史にIf(イフ)はありませんが、もし就職氷河期が存在せず、あるいはもう少し短期間で終わっていたなら、団塊の世代の子どもたちが含まれる氷河期世代がその人数の多さから就職して結婚し、そして子どもたちを産むことで日本の少子化は今ほどひどくはなっていなかったでしょう。そして、年金や介護の問題ももう少し違うものになっていたのではないかと考えると、残念でなりません。
就職氷河期の特異性は、その後に起きたリーマン・ショックやコロナ・ショックと比較するとよく分かります。
経済状況から見ていくと、2008年のリーマン・ショックは世界的な金融危機に端を発した経済の急落によるものですが、その時の景気後退が2008年2月から2009年の3月までの13カ月に対し、コロナ・ショックの場合はその前から景気は後退局面にあり、2018年から2020年の5月までの19カ月となります。
一方、日本のバブル崩壊による景気後退は1991年2月から1993年10月までの32カ月ですから、それぞれ2倍、あるいは3倍近い長さとなります。リーマン・ショックの場合、直後の落ち込みはとても大きかったのですが、アメリカなどがバブル崩壊後の日本の状況をしっかりと分析した上で、迅速にしっかりとした対策を打ったおかげで、1年ちょっとで終わっています。
その結果、リーマン・ショックやコロナ・ショックの直後も採用活動の縮小や、あるいは内定取り消し、派遣切りなどが問題になっていますが、就職氷河期のような長期にわたることはなく、比較的短い期間で回復に向かっています。
もちろん、リーマン・ショックやコロナ・ショックの時も、学生たちは大きな影響を受けてはいます。しかし、比較的短期であったことに加え、就職氷河期と違って、その前に「新卒者を採り過ぎる」ということをしておらず、新卒採用を就職氷河期ほど極端に抑える必要がありませんでしたし、どちらかといえば非正規雇用の雇用調整で対応できたという面もあります。
そして何より違うのは、日本の経済状況が2013年のアベノミクス以降上昇に転じて、雇用環境なども良くなり始めたことです。就職氷河期世代は10年以上の長きにわたって続きましたが、これでは大学卒業時に正社員になれなかった人たちが正社員になろうと挑戦する機会は限られてくるのに対し、リーマン・ショックやコロナ・ショックの場合は雇用環境が比較的早く好転したことで、再挑戦が可能になります。
そう考えると、就職氷河期世代というのはいろんな意味で運が悪かったというか、巡り合わせが悪かったとしか言いようがありません。
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