なぜ「就職氷河期世代」は40代・50代になっても給料が増えないのか

» 2025年05月16日 06時00分 公開
[永濱利廣就職氷河期世代の経済学]

 就職氷河期世代の平均年収の低さの理由として、大企業への就職率が低く、中堅・中小企業に就職した人が多いと指摘しましたが、実は就職氷河期世代よりももう少し上の人たちも含めた40代、50代の人たちというのはいろいろな複合的要因によって年収の減少に直面する人が少なくないというのも事実です。

 大企業の正社員であれば、年功序列の時代なら40代、50代はキャリアアップして管理職になり、収入も大きく増えていく時期なのですが、2023年の賃金構造基本統計調査によると、特に大企業の30代後半から50代前半の所定内給与は下がっています。マスコミの報道などを見ていると、大企業では賃金が上がっているように思えますが、実は下がっているということです。理由はいくつかあります。

なぜ「就職氷河期世代」は40代・50代になっても給料が増えないのか 4つの要因

 1つ目は、バブル崩壊後の90年代後半に起きた山一證券や北海道拓殖銀行の破綻といった金融システム不安、そして2008年のリーマン・ショック、さらには2020年の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大など、ほぼ10年スパンで企業は業績の悪化に見舞われていることです。

 業績が悪化すれば当然給与は削減されますし、人員削減や雇用調整が行われます。リーマン・ショックの後、大企業で部長や課長といった管理職の年収が100万円、200万円といった規模で下がるケースがありましたが、これらの影響をまともに受けたのが今の40代、50代です。

 実際に「ボーナスの推移」(図表1)を見てもらえば分かるように、リーマン・ショックの時にボーナスも大きく落ち込み、そこから長く低空飛行が続くことになります。

 結果、普通なら100万円、200万円単位で収入が増えていくはずが、逆にその単位で収入が減ったわけですから、就職氷河期世代は社会に出る時に苦労して、かつ管理職になり、ようやく苦労が報われるはずの時期に、収入の減少に直面することになったのです。

図表1:ボーナスの推移(出典:『就職氷河期世代の経済学』)

 2つ目の理由は、ポストの縮小です。40代や50代が中心となっている事務職や管理職のポストというのは、組織のフラット化や業務の効率化によって削減の対象となりやすい上に、今後は生成AIに取って代わられる可能性もあり、ポストは減ることはあっても増えることは期待できません。

 3つ目の理由は、氷河期世代の非正規雇用割合は高く、非正規雇用の人は賃金が低い上、昇進や昇給の機会が少なく、全体で見ると他の世代に比べてやはり年収が伸びにくいという面があります。

 4つ目の理由はスキル不足です。就職氷河期世代は正社員であっても、上にバブル世代がたくさんいて、昇進の機会に恵まれず、一方で後輩の数も少なく、本格的なマネジメントを経験することができませんでした。これだけでも不利なのに、時代がIT化、DXと急速に進み、今や生成AIまで入ってくると、こうした変化にスキルが追い付くのはとても難しいものです。

写真はイメージ、ゲッティイメージズ

 結果、就職氷河期世代より上の人たちがこうした変化から何とか逃げ切ることができたのに対し、変化の真っただ中で40代、50代を迎えたということで、社内的にも厳しい立場に立たされました。

 では、転職できるかというと、転職市場が求める本格的なマネジメント能力やデジタル能力は不十分という状況に陥っています。

若手の給与アップ しわ寄せを受ける40・50代

 こうした理由が重なったことで、就職氷河期世代の年収は増えるどころか減少したわけですが、年収が伸びない、あるいは減少すると、さまざまな面に影響が出てきます。

 「雇用者報酬と可処分所得の比較」(図表2)のように、特に2010年代に入ってアベノミクスが始動してからは、雇用が増えることで雇用者報酬は増えています。しかし、賃金から税金と社会保険料を引いた可処分所得はそれほど大きく増えていませんし、実質所得も大きく増えていません

図表2:雇用者報酬と可処分所得の比較(出典:『就職氷河期世代の経済学』)

 先にボーナスが増えていないというデータを紹介しましたが、結局、人材を確保するために月の給与は上げたとしても、その賃上げの原資を捻出するためにボーナスを減らしたり、あるいは新入社員の初任給を劇的に上げたりする代わりに、今いる社員、特に管理職の年収を抑えるケースも多く、企業の労働分配率、特に大企業の労働分配率は50年前の水準にまで下がっています。

 つまり、若い人の給与は確かに上がっているわけですが、企業全体の人件費はそれほど上がっておらず、そのしわ寄せは管理職に来ているということで、その世代がまさに就職氷河期世代ということになります。

 さらに、税金や社会保障に加えてインフレの負担もありますから、結果的に就職氷河期世代が手にする実質所得は減っているということになります(図表3「実質の雇用者報酬と可処分所得の比較」を参照)。

図表3:実質の雇用者報酬と可処分所得の比較(出典:『就職氷河期世代の経済学』)

 そして、実質的に手にする年収が減少すれば、生活水準を下げざるを得なくなります。

 就職氷河期世代の中でも、特に非正規雇用の男性の婚姻率の低さは既に指摘した通りです。しかし、結婚して子どもを持ち、家を持った人たちが「勝ち組」と言えるのかというと、そうではありません。

 40代というのは、それでなくとも子どもの教育費や住宅ローンなど大きな支出を抱えています。そこでかつてのような所得の伸びが期待ではないどころか、名目でも実質でも減少しているわけですから、そこにこうした大きな支出が重なると、家計のやり繰りは困難になり、生活水準の低下を招かざるを得ません。

 就職氷河期世代でも、年齢が上の人たちというのは第二次ベビーブーマー世代であり、人口的なボリュームも大きいわけです。このためその人たちの家計が苦しくなれば、個人消費にも影響が出て、結果的にマクロの個人消費も増えにくくなります。

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