この記事は『わたしたちのエンゲージメント実践書』(株式会社アトラエ Wevoxチーム著、田中信著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
対話とエンゲージメントにどのような関係性があるのか理解を深め、職場への対話の周知に活用しましょう。
対話はチームや組織単位でのエンゲージメントの実践において必要不可欠です。お互いが違うことを認識しながら、相互理解を深めていく過程は、重要な取り組みとなってきます。
そのため、1対1や組織での対話とエンゲージメントの実践はほぼイコールと言ってもいいほど、切っても切れないものだと言えます。
何に対してエンゲージメントを感じるかは人それぞれです。「自分はこれでエンゲージメントが高まるから、Aさんにも同じことをしてあげよう」……という発想が通用しないことが多いと考えるようにしましょう。
自分と相手が見ている景色が違うという前提のもと、「Aさんはどういうときにエンゲージメントを感じるか、どういうサポートがあるといいか」を確認し合う。そのために、対話が重要になってくるのです。
また、同じ人でも時期によってエンゲージメントの体感に変化が起きます。1年前のAさんと、今のAさんでは、何に対してエンゲージメントを感じるかが変わっているのです。そのため、定期的に対話を行うことも大切になってきます。
「あのメンバーは今『成長できていない』ことに悩んでいる。成長機会を与えるにはどうすればいいだろう?」「最近新しいチャレンジができていなくて物足りない。今度の対話の機会に上司に話してみよう」「この前、チームメンバーが助けてくれた。次の対話会のときにお礼を言おう」……。
こういった対話の機会を通じ、相互理解と相互支援を重ねていくことで、組織としてのエンゲージメントの実践が促進されていくのです。
ベストセラー『さあ、才能に目覚めよう』(日本経済新聞出版社)の著者であるマーカス・バッキンガムは、ハーバード・ビジネス・レビュー(2019年11月号「The power of hidden team」/ダイヤモンド社)への寄稿文で、対話がエンゲージメントに与える影響について以下のように言及しています。
ADPRIがスタンフォード・ヘルスケアで実施した初期の調査では、対話の場を毎週設けているチームのエンゲージメント・レベルが毎月1回しか実施していないチームを平均21ポイント上回っていた。
また、Wevoxのクライアント企業を対象とした調査でも、定期的に対話の機会を設けることで、メンバー間の信頼関係が深まり、エンゲージメントにいい影響を与える傾向が確認されています。
コミュニケーションが頻繁になるほど、課題の早期発見と解決が進み、メンバーの声が組織の学習や革新を後押しする基盤となります。こうした積み重ねが互いの信頼や相互理解を育み、仕事への意欲や満足度を高める原動力につながるのです。
世間話や議論と対話の違いを解説します。「普段から話している」「わざわざ対話する必要あるの?」といった職場の声に対し、対話の重要性を説明する際の参考としましょう。
「U理論」を生み出したC. オットー・シャーマーは会話や対話と呼ばれる行為には4つのモードがあると提唱しています(※)。この4つの会話のモードをもとに「対話」とは何かを考えていきましょう。
(※)Scharmer, O.C (2000).Presencing:Learning From the Future As It Emerges:On the Tacit Dimension of Leading Revolutionary Change.
なお、この4つのモードはどれがいい、悪いではなく、使い分けが重要だという前提を念頭に、以降の解説を読んでいただきたいと思います。
明確な目的を設けず、聞き手と話し手が自由に話をする種類です。儀礼的というとイメージしづらいかもしれませんが、「建前的な会話」と言い換えてもいいでしょう。特徴としては、丁寧、慎重、見せかけ、本音が語られないといったものが挙げられます。
以下の例のようにAさんは表面的には了承をしていますが、心の中では疑問を抱いています。しかしそれを表に出すことなく、儀礼的、建前的に会話をしていることが分かります。
例)
マネージャー:「このプロジェクトの納期は10月にしよう」
Aさん:「承知しました」
(あれ、クライアントは11月でいいと言っていたけど……。それに今のリソースだと10月は厳しいな……)
マネージャー:「何か不明点はありますか?」
Aさん:「い、いえ、大丈夫です」
(無理すればなんとかなるか……)
この例は本音が言えない会話として、「1. 儀礼的会話/世間話」のネガティブな側面を描いています。しかし、この会話の種類が悪いというわけではなく、初対面同士やまだそこまで信頼関係、相互理解が深まっていない相手に対しては、世間話からスタートすることは何も悪いことではありません。
「あのニュース知ってる?」「最近ハマってること何?」といったような、チーム内での雑談も、この種類に該当します。
「プロジェクトの計画を立てる」「クライアントとのトラブルへの対応策を考える」など、目的を明確にし、自分の考えを主張したり、メンバーの意見を聞いて物事を判断するための会話です。
以下の例のように、それぞれが自分の見方から主張をしあったり、率直に言う、語るという特徴があります。「〇〇についてどう思うか」「〇〇で進めるのがいいのではないか?」といったやり取りがよく生まれます。相手の意見に耳を傾けるより、自分の正しさを証明することに重きが置かれがちという特徴があります。
ビジネスシーンにおいても、よくある会話の種類であり、イメージがつきやすいのではないかと思います。
例)
マネージャー:「このプロジェクトの納期は10月にしよう」
Aさん:「クライアントは11月でいいと言っています。10月だとかなり厳しいので、11月が現実的かと思います」
(なんでそんな無茶振りするんだろう。どうせこっちの事情は聞いてくれないだろうな……)
マネージャー:「それでも、早めに納品したい」
Aさん:「現状のリソースだとかなり厳しいです」
(断固反対するしかない)
自分の主張をいったん横に置き、相手の意見に耳を傾けて互いに探求する姿勢で話をする会話の種類です。相手の意見の背景にある思いや考えを探るために、たとえ自分と考え方が違ったとしても、まずはしっかりと話を聞こうとする姿勢を持ちます。
例のAさんのように、いきなり反対をするのではなく、相手の考えにある背景を聞こうとしたり、相手の話を共感的に聴くという特徴があります。「なぜそう思ったの?」「〇〇をしたい背景には何があるの?」といったコミュニケーションがよく発生します。
例)
マネージャー:「このプロジェクトの納期は10月にしよう」
Aさん:「10月とおっしゃる意図をもう少し教えていただけますか? クライアントは11月でいいと言っていますが」
(10月は厳しいけど、いったん理由を聞いてみよう)
マネージャー:「このクライアントは、以前納期遅延をしてしまってしばらく取引が停止していたんだ。久しぶりの取引再開だから、スピード感を持って納品して信頼回復をしたい」
Aさん:「そういうことですか。それであれば善処しますが、リソースの確保は必須です」
マネージャー:「分かった、すぐ調整に動くよ」
互いの意見を元に、未来への探求をするために、意見を出し合う会話の種類です。これまでの解決方法でなんとかしようとするのではなく、「こういう方法もあるのでは?」と、新しい洞察やアイデアの協創が生まれるような生成的な対話となります。
以下の例のように、この対話をする前までは考えられなかった、新たな洞察、アイデアについて対話が生まれています。「話をしていて気付いたけど、〇〇はどうだろう?」「第3の案として……」といったコミュニケーションがよく発生します。
例)
マネージャー:「このプロジェクトの納期は10月にしよう」
Aさん:「どうして10月なんですか? クライアントは11月でいいと言っていますが」
マネージャー:「このクライアントは、以前納期遅延をしてしまってしばらく取引が停止していたんだ。久しぶりの取引再開だから、スピード感を持って納品して信頼回復をしたい」
Aさん:「なるほど。スピード感で信頼回復もいいと思いますが、質も大切だと思います。11月には間に合わせるとして、質も担保できるよう計画を立てて、信頼回復に努めるのもいいかと思います」
マネージャー:「確かに、そうだね。あ、今言われて思いついたけど、例の企画も盛り込んだらどうかな?」
Aさん:「いいですね。Bくんが詳しいので、ぜひこのプロジェクトに入ってもらいましょう」
以上が会話の4つの種類になります。対話を理解、促進する上で、この4つの会話はどれが悪い、どれがいいというものではありません。必要に応じて、この4つの会話を使い分けることがポイントとなってきます。
自分たちのチームに関する対話やワークなど、答えがないテーマを扱う際は、儀礼的会話や討論議論に終始しないように、ER(Engagement Runners、エンゲージメントを実践し、広げていく人たちを意味する造語)あるいは各チームの推進役がうまくファシリテートすることが大切なポイントとなってきます。
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