日産「2万人リストラ」の後に待ち受けるもの 人の次に削るのは……Merkmal(2/2 ページ)

» 2025年05月18日 08時00分 公開
[鶴見則行Merkmal]
Merkmal
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プラットフォーム半減の衝撃

 日産の再建方針は、人員削減と生産拠点の統廃合に焦点を当てている。しかし、このアプローチは財務上の損失圧縮には寄与しても、産業成長基盤の再構築にはつながらない。

 2021年11月に発表された長期戦略「Nissan Ambition 2030」では、2026年までに電動車20車種、2030年にはEV19車種を含む27車種を市場投入する計画が示された。

 しかし、今回の「Re:Nissan」では、開発プラットフォームを13から7に集約し、開発リードタイムを30〜37カ月に短縮する方針が発表された。だが、対象車種はスカイラインやCセグメントSUV、インフィニティの小型SUVなどに限られており、戦略全体の規模は大幅に縮小された。

 開発対象の絞り込みと期間短縮は効率化の一環だが、それが中長期的な競争力強化に結びつかない限り、事業の持続性には疑問が残る。電動化やソフトウェア化における優位性の再構築が不透明な現状では、構造改革が内部資源の希薄化と市場対応力の低下を加速させる恐れがある。

 実際、日産は開発と生産のコア機能を外部に移管し始めており、製品起点の産業モデルから資本起点の請負モデルへ転換が見え始めている。

製品起点の産業モデルから資本起点の請負モデルへ転換が見え始めている(ゲッティイメージズ)

外資依存の代償

 1999(平成11)年に始まったルノーとの資本提携は、財務体質改善に寄与したが、自社独自の技術戦略を弱め、技術開発の主体性を奪った。ポスト・ゴーン期には、提携先との機能分担が曖昧(あいまい)になり、特にEV領域で戦略の整合性が欠如している。この結果、技術への意思決定は現場主導から遠ざかり、競合他社との開発速度の差が致命的な水準に達しつつある。

 日産の現状は、業績不振だけではなく、日本の輸送機器産業が抱える構造的課題を象徴している。製造拠点の固定費負担が重く、労働市場の硬直性や国内市場の縮小が成長戦略の選択肢を制約している。開発体制の絞込みと供給機能の外部委託は資本コスト削減には合理性があるが、それが中長期的な市場シェアや企業ブランドの維持に結びつくかは不透明だ。

 もしEVやSDVに本格参入しないのであれば、それは競争市場からの撤退を意味する。参入するのであれば、開発資源の再投入と迅速な意思決定が不可欠だ。いずれにせよ、現時点で日産の姿勢は明確ではない。削減と集約を優先するなかで、戦略の論理構造が欠け、構造改革が目的化している。これが国内外の関連企業やサプライヤーに与える波及効果は大きく、失敗すればその影響は日産一社にとどまらない。

 自社製造による産業基盤を維持するのか、資本効率を重視した業態に転換するのか、その岐路に立たされている。製造業に求められるのは、雇用や技術継承の担保という経済機能の持続に対する責任だ。もし日産がそれを果たせないのであれば、産業構造の大規模な再設計を迫られる局面が早く訪れるだろう。

 日産の巨額赤字を解消するには、通常の再建策では足りない。次に削減すべきは、人員かインフィニティブランドか。

 残された時間は限られており、迅速な意思決定が求められる。日産にとって、どのような存在価値を残すべきかが問われる時期だ。

 現在問われているのは、製造業依存の脱却ではなく、製造業の根本的な進化だ。モビリティ産業は大きな変革期にあり、日産の再建が日本の製造業にとっての試金石となる。

 モビリティ産業の岐路は日産から始まっている。今後の再建策の進展に注目すべきだ。

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