日産「2万人リストラ」の後に待ち受けるもの 人の次に削るのは……Merkmal(1/2 ページ)

» 2025年05月18日 08時00分 公開
[鶴見則行Merkmal]
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 日産自動車は2025年5月13日、経営再建計画「Re:Nissan」を発表した。あわせて、2万人規模の人員削減方針を明らかにした。2024年11月に発表していた9000人削減に加え、国内外で約1万1000人の追加削減に踏み切る。

 国内での本格的な人員削減は2007(平成19)年以来、18年ぶりとなる。対象となるのはグループ全体の従業員のおよそ15%にあたる規模だ。

 この削減規模が示すのは、コスト削減策だけではない。日産という企業の構造自体を抜本的に見直す局面に入ったことを意味する。リストラの割合は、「約7人に1人」の計算になる。グローバル企業としても異例の水準といえる。

 この動きが意味するのは、撤退なのか。それとも、企業としての変態(メタモルフォーゼ)なのか。日産は何を捨て、何を残そうとしているのか。大規模リストラの背景を掘り下げ、再建の行方を探る。

日産自動車はどこへ向かうのか――(ゲッティイメージズ)

企業ガバナンスの機能不全が招いた赤字

 日産の2025年3月期決算は、当期純損失6709億円となり、大幅な赤字に転落した。前年の黒字4266億円から一転し、わずか1年で1兆円超の純減となった。

 赤字転落の背景には、主に3つの構造的課題がある。

  • 硬直化したコスト構造
  • 北米市場への過度な依存
  • 開発投資の停滞による商品ラインアップの陳腐化

 スポーツタイプ多目的車(SUV)やセダンに偏った従来の戦略は、競争力を徐々に失った。商品価値では差別化できず、価格競争に巻き込まれた。

 加えて、電動化やソフトウェア定義車両(SDV)への本格的な投資も遅れた。結果として、コスト削減に依存しなければ利益を確保できない体質が固定化している。

 過去にも繰り返されてきたリストラや再建策は、削ることでしか未来を語れない企業風土の象徴ともいえる。経営統治、すなわち企業ガバナンスの機能不全が、この赤字を招いたと見るべきだ。

まず人員削減 変わらぬ体質

 2万人規模の人員削減は、どこに向かうのか。

 「Re:Nissan」によれば、対象は生産部門、一般管理部門、R&D部門における直接・間接の従業員である。契約社員も含まれる。とりわけ、高コスト体質とされる国内工場の人員が主な削減対象となる見通しだ。

 国内生産の再編は、コストの高い製造拠点を切り離すという構造的な方針を象徴する。そうした論理が社内で当然のように共有されているのが、現在の日産の実態である。過去には村山工場、座間工場が閉鎖されており、同様の流れが再び加速しかねない。新たな国内工場の閉鎖も、もはや回避困難な段階にある。

 開発部門では、国内外で重複する機能の見直しが進む可能性が高い。グループ企業や外部サプライヤーへの業務委託が可能な領域も、削減の対象とされるだろう。こうした外注化の拡大は、日産が独自に開発・生産する意志を手放し、「アセンブラー(組立屋)への転換」を促す恐れがある。

 グローバル最適化の名のもとに優先されるのは、資本効率だ。雇用維持や人材育成といった中長期的視点は後回しにされる傾向が強い。業績が悪化すれば、まず人員を削り、短期的な財務改善を図る。この体質は今も変わっていない。

 日産の企業体質には、外資主導によって築かれた短期収益最優先の思考が深く根付いている。再建の名を借りた合理化の連鎖は、いま再び加速しつつある。

“請負工場”へと変質するリスク

 日産はどこへ向かうのか。今、その問いに対する答えは悲観的な様相を帯びている。完成車メーカーとしての競争優位は、すでに薄れつつある。

 今後、OEM供給先としての立場は一層強まる見通しだ。三菱自動車には、2026年後半から北米向けに次期リーフの供給を始める計画がある。

 一方で、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)との提携を模索する動きは、自社開発の放棄に近い選択と見なせる。自らの技術でクルマをつくる意志を後退させる動きともいえる。

 このままでは、完成車メーカーとして生き残るのではなく、既存の工場や設備を活用する“請負工場”へと変質する懸念もある。鴻海との連携が進めば、外資への取り込まれも現実味を帯びてくる。

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