ChatGPTで「アイデア出し」は逆効果──“むしろ失うもの”とは

» 2025年06月28日 15時30分 公開
[Laurel KalserHR Dive]
HR Dive

 米ペンシルベニア大学ウォートン・スクールにあるマック・イノベーション・マネジメント研究所による新たな研究によれば、AIはアイデア創出に一定の効果をもたらすが、同時に重要なトレードオフが存在することが明らかになった。

生成AIを使うことで、むしろ「失われるもの」とは?

 研究を執筆したのは、マック研究所フェローのレナート・マインケ氏、ウォートン教授のギデオン・ネイブ氏および同研究所共同ディレクターのクリスチャン・テルウィッシュ氏の3人。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 彼らは研究の中で、ChatGPTのような生成AIが、個人の創造性を高めるという効果を持つ一方で、グループ全体としての「思考の多様性」を著しく低下させることを確認した。

 研究チームは、グループでのブレインストーミングにおいて「多様な視点や発想の広がり」が成果の鍵となると強調しており、AIがこの“多様性の源”を抑え込んでしまう可能性があると指摘している。

 例えば実験では、参加者に「レンガ」(brick)と「扇風機」(fan)を使って新しいおもちゃを考案するよう求められた。

 この課題に対してChatGPTを使用したグループでは、生成されたアイデアの94%が概念的に重複しており、9人の参加者が全く独立して、同じ名称「Build-a-Breeze Castle」(ブリーズ城を作ろう)という名前を付けていたことが判明した。

 一方で、人間のみで発想を行ったグループでは、全てのアイデアがユニークであったと、研究は報告している。

 5つの異なる実験を通じて一貫して、ChatGPTを用いたブレインストーミングでは、提案されるアイデアの範囲が狭くなる傾向が見られたという。

 「たとえ個々のアイデアが独創的に見えたとしても、生成AIに過度に依存すると、視点の広がりが制限される可能性がある」と、研究チームは述べている。

 こうした過剰依存の傾向は、雇用やビジネスの現場でも見られるとされている。ある組織心理学者は、現在のAI導入の潮流を「西部開拓精神」にたとえている。

 つまり、多くの企業が生成AIを競うように取り入れているものの、その実装方法や現在の技術水準で何ができて何ができないのか、あるいはどんなリスクがあるのかを十分に理解しないまま運用しているというのだ。

 しかしながら、「人間的要素」はいまだに極めて重要な役割を担っている。

 これは正式な学術研究だけでなく、現場の実体験や個々のエピソードからも明らかであり、企業がこの要素を軽視すれば、思わぬ失敗に直面する可能性が高いと指摘されている。

 例えば、2025年4月に米Express Employment Professionals社と米Harris Poll社が実施した調査によれば、米国の求職者のうち約8割が、履歴書やカバーレターの作成、模擬面接の準備といった採用プロセスにおいて、生成AIの使用は適切であると考えている。

 一方で、同調査に回答した求職者1000人のうち87%が「候補者との面接は人間が行うべき」と回答しており、AIにはカルチャーフィットや態度といった“ソフトスキル”を的確に評価することはできないと主張している。

 このような姿勢は、ソーシャルメディア上でも広がりを見せている。

 例えば、あるTikTok動画で「ロボットによる面接」が不具合を起こす様子が拡散されると、それに対するコメントの一つにこうあった。

 「対面で面接する礼儀もないような企業なんて、こっちから願い下げだ」

AIによる人員代替を急ぐことのリスク

 さらに、組織設計・人員計画ソフトウェアを提供する英Orgvueによる最近の調査によれば、人員をAIで置き換えることを急いだ企業の多くが、その判断を後悔していることも明らかになっている。

 同調査では、そうした施策を実施した企業の経営者の過半数が「誤った判断だった」と認めており、AIを最も有効に活用できる職種を把握していなかったことが主な要因であったとされている。

 AIがもたらすとされる生産性向上には、人間と機械の協力関係、そして意図的なリスキリングが不可欠だと、OrgvueのCEOは強調している。

 一方、ペンシルベニア大学ウォートン校・マック・イノベーション・マネジメント研究所の研究者たちは、チームの創造性と革新性を高めたいと考えるリーダーに向けて、以下のような実践的なアドバイスを提示している。

 「現実の問題解決において、ブレインストーミングの真の価値は“多くの声”ではなく、“多様な発想”にある」

 さらに彼らはこう付け加えている。

 「たとえ“テニスラケットと庭用ホースを組み合わせてスプリンクラーにする”というアイデアがどれほど独創的に見えても、本当に成功したブレインストーミングなら、“スプリンクラーの列”ではなく、“多様な視点のモザイク”が生まれるはずだ」

この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ

ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

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