マカオ政府観光局は7月11〜20日、マカオ半島東側のエンターテインメント複合施設「マカオ・フィッシャーマンズ・ワーフ」で「2025マカオ国際美食都市カーニバル」を開催している。10日間にわたって開催される観光・美食・文化を融合させた国際的な食文化の祭典だ。
カジノのイメージが強いマカオは、実はユネスコの世界文化遺産に登録されている場所が合計31カ所あるなど、魅力的な観光地でもある。
マカオ政府観光局は4月にも、東京の秋葉原で「Journey To Experience Macao〜旅するマカオ祭〜」と題した誘致活動を実施。マカオの魅力を積極的にアピールした。これに合わせて来日したマカオ政府の観光のトップ、同局のマリア・ヘレナ・デ・セナ・フェルナンデス局長に、日本人の誘致戦略を聞いた。
マカオ政府観光局の発表によると、2024年にマカオを訪れた日本人の観光客数は、コロナ前の2019年比で5割未満にとどまっている。マカオにとっての日本市場の位置付けはどんなものなのか。
「確かに新型コロナウイルスなどの影響から、以前よりは減っています。ただ昔から日本はマカオにとって重要なマーケットで、それは中国返還前も返還後も変わっていません。日本人観光客の数字だけを増やすことが1番の目的ではなく、たとえ数が少なくても、質の高いお客さまに来てほしいと考えています」
質を求める理由は「日本人向けの旅行日程を見ると、文化や歴史を学べる場所を回るなど、マカオそのものを深く知りたいと思う人が多いから」だという。中国において合法的にカジノができるのはマカオだけだ。カジノには大勢の中国本土からの観光客がいる。
認可を受けていないカジノが違法であるのは日本も同じだ。ただし日本人は、学生の修学旅行からシルバー層の旅行まで幅広い観光客が訪れていて、いずれも文化系重視の日程が組まれていることが多いという。
マカオ政府観光局としては、マカオ政府が産業の多元化を目指した経済振興策を実施することによって観光を活性化させたいと考えている。
「『1プラス4デベロップメント・ストラテジー』という戦略です。コンセプトは、観光のほか、金融、テクノロジー、文化、スポーツなど、それぞれについて独立した計画を推進するのではなく、プラスアルファを加えることで、結果的に他の業界もサポートしていくのです。観光では『観光+教育』『観光+イベント』などの4つを推進していきます」
2024年の世界全体からのマカオへの観光客数は、2019年比で89%の約3493万人。日本よりはましではあるものの改善しきってはいない。
「まだリカバリーしている最中ですが、戻りきらない理由は、世界経済の不安定さやマカオへのフライト数が少ないという課題があります。われわれは今、既存のマーケットと新しいマーケットの両方を開拓しているところです」
ただ、マカオ政府観光局は、新型コロナが収束してからも、一気には市場を開放しなかった。コロナが明けた2023年に中国本土・香港・台湾からの観光客を積極的に受け入れ、翌2024年には、日本を含めたアジア全体に目を向けた形だ。
2025年には欧州、中東、さらには、これから開拓するべき新規市場に対して段階的にステップアップする形で推進している。これは、前述したように「数から質」にシフトしたことが分かる事例だと言えそうだ。
これからの課題は「1日でも長くマカオに滞在してもらうこと」だと話す。これは、香港を観光したついでにマカオに立ち寄る観光客が多いため、マカオにだけ長期滞在をする人が相対的に少ないという課題を表しているのだ。その状況を打開するために、もっとリピーターを増やしたいと考えているという。
「マカオにまた来たいな、と思いながら帰ってもらえれば、私たちは観光客に良いものを提供できたという証です。そこから口コミで広がり、新規観光客の獲得にもつながるはずです」
「Journey To Experience Macao〜旅するマカオ祭〜」ではマカオグルメのキッチンカー、IR施設についての関連ブース、マカオグランプリのコースについてシミュレーターを使って体験ドライブできるものなど、マカオ観光の魅力が理解できるように工夫されていた観光局に長期滞在をしてもらうには、さまざまな局面において快適さが求められる。マカオ政府観光局はそのことを理解しており、IT技術を積極的に活用することによって実現しようとしている。
「観光客はスマートフォンを利用するので、さまざまなアプリを作っています。クレジットカードや電子決済も利用しやすくしています。なぜなら、いちいち現地通貨に両替をしなくてもいいという利便性は重要だからです」
中国にはグローバルな電子決済プラットフォーム「Alipay+」があり、香港、中国本土、韓国、タイ、マレーシアなどで利用可能だ。「私の場合は、マカオの電子決済システムであるMPayとAlipay+をリンクする形で利用しています。これによって、自分が普段使っている通貨を外国で使えるようになるのです」
そう考えると逆のケース……例えば、日本人観光客がPayPayなどの電子決済システムをマカオで利用できるようになればベストだ。日本人も、両替をする必要がなければ顧客体験(CX)は向上できる。そのため電子決済の利便性は、観光にとって見過ごせない要素だ。
マカオ政府として、世界各国で電子決済システムを開発する企業に働きかけることはないのか?
「政府として、『こうしなさい』と命令はできませんが、当然、お願いはしていきます。実現できれば、私たちは、導入国でプロモーションがしやすくなりますから」
決済システム以外にも、観光に関係するアプリを積極的に開発している。その根幹を成すのがデータ活用だ。
「マカオでは、法律によってデータ保護が厳しく定められており、簡単には個人情報をいろんなところに応用はできません。ただ政府内に、データシェアリングのプラットフォームがあります。これは個人情報ではなく、全体的なデータを共有するところとなります。これらのデータを使って『ビジネスとして人気のエリアがどこなのか?』『どうすれば収益を増やせるか?』 というビジネス戦略にも活用したいと考えています」
その一例として、マカオにある100カ所ほどの観光スポットでは、混雑具合を把握できるようになっている。現時点で、どの観光地にどのくらいの人がいるのかが分かるそうだ。過去のデータも組み合わせることによって「今日は午後2時ぐらいに〇〇が混雑しそうなので、そこを避けてみてはどうですか?」とアプリが提案してくれるという。
「人流を把握できるので、あまり観光客が集まらない場所で、あえてアクティビティを開催するよう提案するなど、もう少しゆったりとした、何らかの新しい観光体験を提供できるのではないか? とも考えています」
他にも、聖ポール天主堂跡やマカオグランプリ博物館では、VR体験ができるアプリを製作した。将来的には、テクノロジーを使って入境審査の簡素化も狙っているという。
「外国人がマカオに入境するとき、税関の担当者と話をする必要があります。その工程をアプリによって簡素化できるようになる可能性があると思っています。それができれば、今までイミグレーションで費していた時間が、観光する時間に振り分けられるようになります」
EXPO 2025 大阪・関西万博が終了後、その多くの土地に米MGM主導のIRリゾートが誕生する予定だ。マカオに行く日本人が減る可能性がある。マカオにとってはどんな影響があると考えているのか。
「そもそもギャンブルをしにマカオに来てくださいと、日本の人々に対して全面的に打ち出したことはありません(笑)。ギャンブルではなく、マカオで何ができる、どんな体験ができるかをおすすめしていきたいです」
フェルナンデス局長は、マカオはカジノの街ではなく、さまざまな観光体験ができる街であることに自信と誇りを持っているようだ。
近年の日本人観光客は「コト消費」を重視するようになり、消費の成熟化が進んだ。その傾向は、質を重視するマカオ政府の方向性と、一致したといえる。今後は、IT化やイベントを継続的に実施することがカギとなりそうだ。日本人観光客が海外旅行を計画するときに「マカオ」を連想させられるかにかかっている。
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