社労士である株式会社Works Human Intelligenceの井上翔平氏が、労務に関する疑問に答えます。
Q: 7月に育児休業から復帰予定の、シフト制のパート社員から質問がありました。
「子どものお迎えもあり、復帰後はペースがつかめるまで勤務時間やシフトを減らしたいと考えています。時短勤務をすると、国から給付金が出るようになったと聞いたのですが、私も対象になりますか?」
4月から育児時短就業給付金が始まりましたが、そもそもパート社員でも給付の対象になるのでしょうか。また当社のパート社員のシフトは、本人の希望を考慮して1カ月ごとに決めており、1日や1週間で労働時間が決まっているわけではありません。
また、当社は昨年、賃金を改定し、相談があったパート社員は復帰後に時給が上がります。このパート社員は育児時短就業給付金の対象となるのでしょうか。
A: 労働時間が決まっていないシフト制のパート社員も、育児時短就業給付金の対象で、労働時間の実績が短くなっていれば時短勤務をしたと認められます。また、時給が上がった場合も、支給対象月の賃金が一定の基準より下がっていれば、育児時短就業給付金を受け取れます。
※産前産後休業、育児休業期間中の賃金支払いはなし
※2024年4月以前は月11日以上勤務
月末締め、翌月25日払い
2025年4月より育児時短就業給付金が創設されました。これは仕事と育児の両立支援策の一つであり、育児を行う労働者が時短勤務を選択しやすいよう、時短勤務によって賃金が減少した場合に支給されます。
受給資格の要件は以下2つです。
(※1)「被保険者」とは、雇用保険の一般被保険者と高年齢被保険者を指す。
出典:厚生労働省Webサイト「育児時短就業給付の内容と支給申請手続 2025(令和7)年2月1日時点版」(PDF)
まず(1)の対象となるためには、2歳未満の子を養育しており、雇用保険の被保険者(一般被保険者、高年齢被保険者)であることが必要です。
雇用保険は正社員、パートといった雇用形態にかかわらず、以下の要件を満たせば対象となります。つまりパート社員であっても、一定の条件を満たせば育児時短就業給付金の対象です。
※学生等適用除外要件に該当する場合は雇用保険の加入対象にはならない。
※執筆時点。雇用保険法の改正により2028年10月から1週間の所定労働時間10時間以上に適用対象が拡大。
また受給資格(2)の「育児時短就業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある)完全月が12カ月あること」については、雇用保険の被保険者として、一定期間働いていることを確認するための要件です。
これは育児休業給付金を受給する際にも必要な要件ですので、育児休業給付金の対象となる育児休業からすぐ、あるいは短期間(具体的には14日以内)で、育児時短就業を開始する場合には確認を不要としています。
なお賃金支払基礎日数とは、賃金の支払い対象となる日であり、有給休暇や所定休日なども日数としてカウントされます。欠勤、休職、産休、育休など、企業として賃金の支払い対象としていない日数についてはカウントされません。
一般的に時短勤務というと1日8時間の決まった労働時間を6時間にするといったように1日の労働時間を短縮するというイメージを持たれている方も多いかもしれません。
今回のご相談のケースでは、毎月シフトを決定しているので、1週間で何日働くのか、1日に何時間働くのかがまちまちで労働時間が決まっているわけではありません。このような働き方をしているパート社員がシフトを減らした場合、それは時短と言えるのでしょうか。
答えとしては、シフトを減らした結果、1週間当たりの平均労働時間が短縮されていれば、育児時短就業給付金の対象になります。この1週間当たりの平均労働時間について、いつからいつの期間で平均を出せば良いのか、またどのように比較をすれば良いのかを具体的に解説します。
まず平均労働時間を算出する期間ですが、原則は時短勤務や休業開始前、賃金支払基礎日数が11日以上ある直近の6カ月間が対象です。
もし2年間さかのぼっても、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が6カ月に満たない場合は、賃金支払の基礎となった「時間」数が80時間以上である月を対象とすることもできます。
今回のケースでは、産前産後休業、育児休業期間中は賃金支払いの対象ではありませんので、産休開始前の2023年11月〜2024年4月が該当します。
また、今回のパート社員の勤務状況を詳しく見ると、上記対象期間の労働時間と賃金は以下の通りでした。
1週間の平均労働時間については、総暦日数を7で割って週数を出し、その週数で総労働時間を割ります。算出式は以下の通りです。
650÷(182日÷7)=25時間
今回のケースでは本来の1週間の平均労働時間は25時間です。復職後、1週間の労働時間が25時間より短くなっていれば、労働時間が短縮されたと見なせます。
育児時短就業給付金の趣旨はそもそも時短によって賃金が下がった場合に、賃金の減少を補うためのものです。
具体的には本来の賃金月額(休業開始時賃金月額)から10%以上、賃金が下がっていた場合、支給率が最大の10%となり、支給対象月(減少後)の賃金の10%が支給されます。なお本来の賃金月額(休業開始時賃金月額)の10%が支給されるわけではないのでご注意ください。
昇給がなかった場合、単純に労働時間が10%減少していれば賃金も10%減少しますが、今回のケースのように昇給がある場合は、労働時間がどれくらい減少すれば支給率が10%となるのでしょうか。
なお賃金の減少額が10%未満だったとしても、決められた支給率に応じて支給が行われますが、今回は支給率が最大となる場合を考えてみます。
まず基準となる賃金を計算します。対象となる賃金は1週間の平均労働時間を算出する際に使用した期間の賃金です。上記の表から対象期間の総賃金は、78万円(=時給1200円×650時間)です。そして基準となる賃金(休業開始時賃金月額)は以下の通り算出します。
78万円÷180×30=13万円
昇給後の時給が1400円なので、これを前提に労働時間が何時間であれば、支給率が10%になるかを考えてみます。
基準となる賃金(休業開始時賃金月額)13万円×90%=11万7000円を下回る労働時間を求めたいので、労働時間をXと置き、以下の不等式を解いてみます。
1400円 × X時間 < 11万7000円
X時間 < 83.5714…
83.5714を時間にすると、およそ83時間34分ですので、1カ月の労働時間が83時間34分を下回った場合に、支給率が10%となります。
以上から、今回のケースの場合、まず1週間の労働時間が25時間を下回る週があることが各月の支給要件です。さらに2025年7月以降は支給対象月の賃金月額が11万7000円を下回る83時間34分よりも労働時間が短くなった場合、支給率が10%となります。
ただし介護休業給付を初日から末日まで続けて受給している場合や高年齢雇用継続給付の受給対象となっている月は支給されませんのでご注意ください。また今回は通勤手当がないケースでしたが、通勤手当がある場合は賃金に通勤手当額も含めて計算するようにしてください。
シフト制のパート社員を雇用する企業であれば、育児との両立をするために、パート社員がシフトを減らすケースは起こり得るでしょう。そのような方に育児時短就業給付金の趣旨を理解してもらい、制度の仕組みを分かりやすく説明するために本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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