続いて博報堂メディア環境研究所 所長 山本泰士氏が『生成AIで世界はこう変わる』(SBクリエイティブ, 2024)の著者であり、GenesisAI 代表取締役社長/CEO 今井翔太氏のインタビューを紹介した。
「今後、細やかな嗜好に対応できる『ハブ』が重要になる」と語る今井氏。ここで言う「ハブ」とは、かつてのYahoo! ディレクトリ検索のようなものをイメージすると分かりやすい。有用な情報を束ねたAI向けのリンク集のようなものをつくっておくことで、SEOの上位に表示されないようなコアな情報にもAIが到達しやすくなるというのである。
今井氏は「このハブの作成は、信頼の高い既存のメディア企業が担うべきだ」とも指摘する。権威あるメディアが作成したハブであれば、いずれAIエージェントを開発・提供している企業側から「使わせてほしい」というリクエストが来るはずだと今井氏は見ているのだ。
さらに今井氏は、「そろそろインターネットには限界が近付いている。AIが生成したコンテンツによる汚染が進み、もはや正しい情報が何だったのか分からなくなっているからだ」と語り、新たに“第二のインターネット空間”をつくって、そこにハブをつくるとよいのではないかと言及した。
加えて、「AI研究者の私が言うのもなんだが、AIに汚染される以前、“2022年以前”のデータは、今後、貴重な資産となるため、極めて丁重に扱うべきだ。AIがどれだけ発展しても、歴史やブランドはつくれない。AIに置き換えられないものは大切に守ったほうがよい」と語った。
こうした一連の今井氏の発言を受けて、博報堂DYホールディングスCAIO 森正弥氏は2019年にWaymo(Googleの自動運転車開発部門から分社化)が公開した論文にまつわる次のエピソードを紹介した。
Waymoによると、優秀なドライバーの走行データだけではなく、未熟なドライバーのデータも含めて多様な走行データを学習させた方が、自動運転の性能が大幅に向上したという。
「そう考えると、第二のインターネットをつくる際には、AIに読み込んでほしい上質なデータや優位な情報だけを恣意的に選ぶのではなく、ネガティブな情報や失敗事例も含めた“本物のデータ”を整備することが重要ではないか。まさに今、企業としての在り方が問われている」と森氏は警鐘を鳴らす。
これに対し山本氏は、「企業としては、生活者とAIの間に割り込んで『こっちにもっと良い情報があるから、こっちを見てよ』と言いたくなる気持ちは分かる。しかし、もっと大きな視点で、AIという存在を組み込んだ新たな社会、第二のインターネットの世界をこれからつくっていくんだという気概をもって、社会のために“本物のデータ”の提供に協力していくべきなのだろう」と語った。
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