変革の財務経理

“日本のCFOだけ”が抱える悩みとは? 欧米に差をつけられているのは「AI活用状況」

» 2025年09月05日 10時26分 公開
[織茂洋介ITmedia]

 変化が激しく将来を見通すのが困難な時代、企業の持続的成長を実現するためにCFO(最高財務責任者)には何ができるのか――。日本CFO協会は2025年9月2日、支出管理プラットフォームをSaaSで提供するCoupa(東京・港区)と共同で初めて実施した「日本CFO戦略調査:2025年」の結果を発表した。

 同調査では日本CFO協会の会員企業である大企業のCFOや経理・財務幹部358人を対象に、現在抱えている課題や解決に向けた取り組みなどについて聞いている。同日にオンラインで開催された記者向けの説明会では、Coupaがこれまでに欧米で実施した同趣旨の調査の結果も併せて紹介され、日本のCFOが抱える独自の課題も明らかになった。

日本企業のCFOがビジネスへの最大の脅威と捉えるのは?

 日本企業のCFOがビジネスへの最大の脅威と捉えるのは、「物価上昇・コスト高騰」(62%)だった。2位が「労働力不足・技能人材不足」(46%)、3位が「市場競争の激化」(30%)。なお、グローバルでは「不安定な地政学的状況」「サプライチェーンの混乱」「インフレ」などが上位に挙げられている。労働力不足・技能人材不足は欧米の調査では見られなかった結果であり、労働力の流動性の低さは日本固有の課題であると言える。

ビジネスへの外部脅威(出典:日本CFO協会、Coupa「日本CFO戦略調査:2025年」 調査期間:2025年6月5日〜2025年7月18日、以下同)

 今期の財務目標達成に「懸念」あるいは「非常に懸念」を抱いている日本のCFOは47%(欧米では40%)で、「多少懸念している」を含めると85%に上る(欧米は69%)。日本のCFOの方が昨今の経済情勢が及ぼす影響をより深刻に受け止めていることがうかがえる。

 今後6〜12カ月後に直面する障害は、1位が「利益率低下による収益圧迫」(68%)、2位が「地政学的リスクの高まり」(46%)、3位が「予算の縮小やコスト削減プレッシャー」(44%)だった。1、3位の結果は、物価上昇・コスト高騰の脅威が顕在化していることを示している。

今後6〜12カ月後に直面する障害

CFOが企業価値最大化に向けて優先すべき戦略

 企業価値最大化のために優先的に着手すべき施策では、53%が「戦略的な投資配分による資本効率の向上」と回答。「グローバル市場展開・新規市場開拓や新製品サービスの開発投入」を挙げた人も同じく53%に及んだ。次いで「支出管理とコスト構造の最適化」を挙げた人も50%と、半数に達した。

企業価値最大化のため優先的に着手すべき施策

支出管理にCFOの関心が高まっている背景

 日本CFO協会専務理事の谷口宏氏はこの結果について、直接的な売上成長が難しくなっている現実が背景にあると指摘する。売上成長の加速はCFOの守備範囲ではないが、その実現の難しさについては7割以上が「難しさを感じている」と回答している。谷口氏は「事業ポートフォリオの入れ替え的な投資配分をするのはCFOの最も重要な仕事。そのために支出管理、コスト構造を最適化するという意識も高まっているのではないか」とコメントした。

売上成長難易度の捉え方

 財務戦略の中での支出管理の位置付けについては、「コスト管理・削減を目的とした管理対象」(71%)が最多だが、同時に「投資判断、利益率改善を実現するための戦略的対象領域」(55%)や「キャッシュフロー経営推進の重要なツール」(37%)という認識もある。

財務戦略の中での支出管理の位置付け

 支出管理を実践する際に直面する課題の最多は「全社的な支出データの可視性が不十分」(56%)で、「支出データが複数ソースに分散しており、データ収集に手間がかかる」(50%)、「コスト削減が必要な時に迅速な対応ができない」(40%)、「支出データが適時に入手できない」(27%)などが続いた。

支出管理をする際に直面する課題

日本と欧米で特にギャップの大きいテクノロジー活用

 あらゆる支出データを素早く入手して手を打ち、コスト削減や利益率改善につなげていきたいと日本のCFOは考えるが、現実は理想とは程遠い。財務プロセスのデジタル改革の取り組みについて聞くと、「手動の業務が中心で、十分に取り組めていない」(38%)、「調達や支払いなど機能ごとに導入」(28%)など、初歩的な課題が並ぶ。谷口氏は「データが見えない中で具体的な施策を打つのが難しいという課題は欧米でも見られるが、日本はさらに遅れているのが実情」と述べた。

財務プロセスのデジタル改革の取り組み

 特にギャップが大きいのがAI導入状況だ。AIを財務・調達業務全体に戦略的に統合している日本企業はわずか2%にとどまる。グローバル(48%)と比較して大きなギャップがあると言える。日本企業ではまだ「未導入だがExcelなどの従来ツールからの脱却を検討中・調査段階にある」(39%)企業が最多だった。日本企業におけるデジタル変革を阻む最大の障害は「デジタル人材・スキルの不足」(26%)であり、「機能・部門のサイロ化」(17%)や「老朽化したシステムの継続利用」(15%)も上位に挙げられている。

財務・調達プロセスへのAI導入状況

 調査結果を受けて谷口氏は「CFOが主導して取り組むべきは支出管理とコスト構造の最適化であり、財務戦略の中での最重要課題であることが明らかになりました。しかし、コスト削減が全てということではなく、CFOは戦略的な投資配分のための原資を捻出するという視点から考えています。それにもかかわらず、リアルタイムでメスが入れられる分析できるようなデータ可視化が進んでいないのが大きな課題」とまとめた。

左から日本CFO協会専務理事の谷口宏氏、Coupa代表取締役社長の反町浩一郎氏

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