多くの管理者が誤解していることがある。それは「見えないと管理できない」という思い込みだ。
昭和の時代なら、この発想は正しかった。情報共有の手段が限られ、進捗確認には物理的な接触が必要だったからだ。しかし現在は違う。
デジタルツールを活用すれば、在宅ワーカーの仕事ぶりは数値で把握できる。プロジェクト管理システム、コミュニケーションツール、業務時間の記録など、詳細にトラッキングが可能だ。むしろオフィスワークよりも、バイアスがかからない分だけ正確に評価できるかもしれない。
それなのに、なぜ管理者は「出社」にこだわるのか?
理由は単純だ。自分自身がデジタル管理に慣れていないからだ。画面上の数字よりも、目の前にいる部下の姿のほうが安心できる。この情緒的な安心感が、公正な判断を阻害している。
前述の企業でも、若手社員の生産性は明らかに高かった。売上数値、プロジェクトの進捗率、顧客満足度など、全ての指標で彼らが上位にランクインしていた。にもかかわらず管理者は「直接アドバイスできない」ことに不満を募らせていた。
ただ、別の見方もある。目先の生産性だけ考えたら、確かに在宅ワークのほうが効率がいい時も多い。しかし、それだけで組織運営ができるわけではない。
組織としてお互い助け合うためには情緒的な部分も重要だ。大変そうにしている人がいたら声をかける。悩んで思考停止になっている人がいれば一緒に考えてあげる。このような人間らしい配慮が、組織力を左右するのだ。長期的に考えれば考えるほど、大事な視点である。
そもそも「相手の立場に立って考える」には洞察力が不可欠だ。誰もが健全な状態で高いパフォーマンスを出せるのならともかく、いつもその状態を続けられるわけがない。人間はロボットでもコンピュータでもないのだ。疲れているとき、落ち込んでいるとき、迷っているとき。そんな状況を察知して適切にサポートすることで、組織は優れたパフォーマンスを出し続けることができる。
洞察するためには近くにいなくてはいけない時もある。画面越しでは見えない微妙な表情の変化、声のトーン、体調の変化などを読み取るには、物理的な距離感が必要だ。
また、周りが頑張っているから鼓舞されるという人も多い。目に見えない組織の力というのも確実に存在する。同僚が集中して取り組む姿を見て自分も気が引き締まる。そんな相乗効果は、在宅ワークでは得られにくい。
問題は、そのようなことをきちんと言語化できない管理者が多いということだ。「近くにいたほうが成果が出る」「顔が見えたほうが伝わりやすい」では説得力がない。人によっては、出社に対するストレスが大きい人も多い。だからこそなぜオフィスワークが必要なのか、論理的に説明できなければ若者は納得しないものだ。
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