「購入ボタン不要」の未来へ Google、AI決済の新標準「AP2」公開Payments Dive

» 2025年09月19日 10時45分 公開
[Justin BachmanPayments Dive]
Payments Dive

 米Googleは9月17日(米国時間)、自律型AIエージェントによる取引を想定した新たな決済プロトコルを発表した。これにより、販売事業者や決済事業者、消費者は「買い物を代行するbot」が当たり前になる時代に備えることになる。

 GoogleはAIとクラウドコンピューティングの両分野で巨額の投資を行っており、今回発表した「Agent Payments Protocol」(AP2)は「エージェントと販売事業者の間で安全かつコンプライアンスに準拠した取引を実現する共通言語を提供し、エコシステムの分断を防ぐ」と公式ブログで説明している。

 AP2は特に認証、認可、責任追跡といった要素に焦点を当てる。発表によると、このプロトコルにはオランダのAdyen(アディエン)、米Mastercard(マスターカード)、米PayPal Holdings(ペイパル)、米Worldpay(ワールドペイ)など多数の企業が参画している。

Googleは9月17日(米国時間)、自律型AIエージェントによる取引を想定した新たな決済プロトコルを発表した(ゲッティイメージズ)

「人間が購入ボタンを押す」常識を覆す

 現在のオンライン決済は「人間が購入ボタンを押す」ことを前提に設計されているが、「自律型エージェントが決済を開始する」という新しい現実は、この前提を崩すものだとGoogleは指摘する。AP2はこの課題に対応するための仕組みとなる。

 ブログ記事はGoogleペイメント部門のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのスタバン・パリク氏と、Google Cloudバイスプレジデントのラオ・スラパネニ氏が執筆した。

 AP2では「マンデート」と呼ばれる仕組みを用いる。これは暗号技術で改ざんを防止したデジタル契約であり、消費者の購買指示を証明する役割を果たす。

 コンサルティング企業Edgar Dunn & Co(エドガー・ダン・アンド・カンパニー)の予測によれば、2024年にAIエージェントがもたらす消費者から企業への取引額は1360億ドルに達し、2030年には1.7兆ドルに拡大する見込みだ。

不正・チャージバック対策は今後の課題

 PayPalのグローバルAI責任者であるプラカー・メーロトラ氏は「AP2は単一の標準を勝ち残らせることが目的ではなく、重要な原則に収斂(しゅうれん)させるためのものだ」と述べ、「オープンで適応可能かつ相互運用可能なプロトコルとして、他のシステムや地域標準とも統合できる」と評価した。

 AP2は「人間が関与する取引」では、まずエージェントに購買意図を示す「インテントマンデート」が作成され、続いて購入内容を確認する「カートマンデート」が提示される。このカートマンデートが商品と価格を改ざん不可能な形で記録する。

 一方「人間が不在の取引」では、消費者があらかじめ価格上限や購入条件を設定したインテントマンデートを作成し、条件が満たされたときにエージェントが自動的にカートマンデートを生成する仕組みになる。

 Googleによると、AP2はステーブルコインや暗号資産など幅広い決済手段に対応する。

 Mastercardの最高デジタル責任者パブロ・フーレツ氏は「現時点ではトークン化された認証情報を用いたエージェント取引を可能にすることに注力しているが、将来的にはインターネット自体がエージェントコマースをネイティブにサポートする方向に進むだろう」と述べた。

 Worldpayの最高製品責任者シンディ・ターナー氏は「業界は消費者体験を摩擦なく提供しようとしているが、同時に購入意図の検証と責任追跡を可能にする仕組みが必要だ」と指摘した。その上で「全ての取引に必ず人間が関与するエコシステムを業界が完全にコントロールできると考えるのは現実的ではない」と懐疑的な見方を示した。

 決済処理企業Adyenのエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント、アンドレウ・モラ氏も「オープン標準はスケーラブルなイノベーションを推進する」と述べ、AI主導・人間主導を問わず「最大の転換率、最小の不正、最小の運用負荷」を目指すと語った。

 ターナー氏は「不正やチャージバックの問題に対応するにはまだ多くのイノベーションが必要だが、AP2は次のイノベーションの波を乗り越えるための非常に合理的な手段だ」と総括した。

© Industry Dive. All rights reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR