「失敗よりも、成功を分析せよ」 楽天を6兆円企業に育てた思考法「PDCA-S」とは?

» 2025年10月13日 08時00分 公開
[福永博臣楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S]

この記事は、福永博臣氏の著書『楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S 』(日本能率協会マネジメントセンター、2025年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 1997年にわずか13店舗、32万円の売り上げから始まった楽天が、現在国内EC流通総額6兆円規模の世界的企業に至った成長の秘訣は何か――。楽天市場のエンジニアリーダーや開発部長として活躍してきた著者が、楽天で学んだ「仮説→実行→検証→仕組化」を基にしたPDCA-Sを紹介します。

 「PDCA-S」は、PDCA(仮説→実行→検証)に、仕組み化(Systematizing)と横展開(Scale-Out)の「S」を加えてまとめた楽天流の組織成長メソッド。

著者が楽天で学んだ「仮説→実行→検証→仕組化」を基にしたPDCA-Sを紹介する。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

楽天で教わった「成功したときほど分析せよ」

 筆者が独立後に関わった中小企業の多くでは、同じ作業やプロジェクトをゼロから何度も繰り返している現場を目にしてきました。毎月繰り返される作業も、毎回誰が何をいつやるかが不明確な状態で始まり、ドタバタしながら何とか後手に回らないようこなしている状況。事の大小はあるかもしれませんが、多くの会社で見られることではないでしょうか。

 毎月行う作業であれば、日付や曜日は変わるかもしれませんが、誰が何をどのタイミングで行うのかは定型化できます。過去の成功事例を体系化し、業務の標準化を図ることで、一から考える時間とコストの無駄を削減できるのです。

 しかし、タスクの管理がなされず、適切なナレッジ共有や業務フローの仕組み化がされていないために、毎月のことでも直前で「そうだ!あれやらなきゃ!」と思い出してからの作業になってしまう状況が発生します。このような仕事の進め方では、心の余裕が持てず、作業者にとって大きな負担になります。

 楽天で働いていたとき、「成功したときほど分析せよ」と教わりました。

 私たちは一般的に失敗した際に原因を分析し、同じミスを繰り返さないように注意します。しかし、うまく行ったときはどうでしょうか。 「うまく行ったね!やったね!次もこの調子で頑張ろう!」と激励した後は、成功を祝っての酒宴で終わりになっていませんか?

成功をナレッジ化するには「言語化」が鍵

 もちろん飲み会が悪いわけではありませんが、せっかく成功したのにそれで終わりではもったいない。うまく行ったことを分析して次も同じようにやれば、成功する確率は自ずと高くなります。成功を一時的なものにせず、未来に使える知識と経験にして会社の中に蓄積していくことが大切なのです。

 知識を蓄積する際も、単にできたことを記録するだけでは、会社全体で使えるナレッジにはなりません。まず、成功事例を分析し、何がうまく行ったのかを言語化することが大切です。作業の順番や工夫したポイントをまとめるだけでも効果はあります。

 手順書やチェックリストを作成できるとなおよいです。自分でも繰り返し使えますし、同じチームの中で横展開することで、あなたが休んだときなどに、チームメンバーが共有された手順書を使って代わりに作業をすることができるようになります。

 他のチームへも横展開しようと思う場合は、言語化したものの抽象度を上げる必要があります。もちろん、そのまま共有して、他のチームの人たちが、自分のチームではどう使えるかを考える方法でもかまいません。大切なのは手順書に書かれてあることを鵜呑みにしてそのまま実行しないこと。チームが異なれば状況も変わるため、そのままではうまく行かないでしょう。

 例えば、誰かからアドバイスをもらって実行しても、うまく行かなかったことはありませんか。アドバイスはあくまでも他人の成功事例の共有なので、知識も経験も立場も状況も違う人がそのまま実行しても、うまく行かないことが多いものです。

 仕組み化も自チームの成功事例のままでは、他ではうまく機能しません他チームに展開しようと思えば、そのチームに合った形に直す必要があります

 PDCA-Sでは、うまく行ったことを仕組み化して横展開することを前提に、業務改善を進めていきます。単に個々の生産性を上げるだけでなく、それを抽象化し共有するまでが大切だからです。

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR