米小売大手Target(ターゲット)は、売り上げと来店客数の減少を反転させるための再建計画を全速力で進めており、その中心にテクノロジーを据えている。
現COO(最高執行責任者)であり、次期CEOに就任予定のマイケル・フィデルケ氏は、8月の第2四半期決算説明会で再建に向けた重点施策を明らかにした。フィデルケ氏は「商品構成力(merchandising authority)の再構築が不可欠だ」と強調。「全社のスピード、顧客体験、業務効率を改善するためにテクノロジーをより活用すべきだ」と述べた。
その方針のもと、同社は現在、特にAIの導入事例を次々と公開している。
商品開発からサードパーティによるマーケットプレイスまで、TargetはAIを業務全体に織り込み、人間の創造性を補完しながら新たな価値を生み出そうとしている。
「テクノロジーと小売の分野に携わるのは、今がまさに最高の時期だ」。同社の最高情報・製品責任者(Chief Information and Product Officer)プラット・ヴェマナ氏は、業界メディアRetail Diveのインタビューでそう語った。
Targetは、生成AIを活用したトレンド分析プラットフォーム「Target Trend Brain」を導入し、バイヤーが新しいアイデアを発掘できるようにしている。同社のブログによると、機械学習による知見がトレンド対応型の商品開発を加速させているという。
ヴェマナ氏は、「われわれの強みは“人間の要素”にあり、特にデザイン力に優れている」と語る。AIを効率化ツールとして活用しながらも、デザインを軸にした商品構成力を高めていく方針だ。
「Target Trend Brain」は、バイヤーの創造性とAIの効率性を融合させることを目的としている。ヴェマナ氏によれば、同社は現在この技術を活用した構想段階にあり、将来的にはより短期間でコレクションを生み出す体制を整える計画だという。
「当社のデザイナーは世界水準の人材だ。AIは彼らの創造力をより素早く引き出すための手段だ」とヴェマナ氏は語る。
「最終的に決定を下すのはデザイナーであり、AIはあくまで支援役にすぎない」とも付け加えた。
同社は、独自のサードパーティ販売プラットフォーム「Target Plus」における出品者審査でも同様のアプローチを取っている。2019年に開始したこのサービスは、一般的なマーケットプレイスとは異なり、商品ラインアップを厳選する「キュレーション型マーケット」を志向してきた。
現在、その出品審査プロセスを支えるのが「エージェンティックAI(agentic AI)」だ。ヴェマナ氏によると、「AIエージェントが申請者の情報をオンラインから収集・分析し、マーケットプレイス担当者が一目で把握できるよう要約して提示する仕組みだ」という。
この仕組みにより、出品者が同社およびその顧客層に適した企業かどうかを、より精密に判断できるようになった。
同社は今冬のホリデーシーズンにもAIを活用する。ヴェマナ氏によれば、同社は2025年、AIによる需要予測エンジンを全カテゴリに展開しており、バージョンを重ねるごとに予測精度が向上しているという。
「AIを活用して商品を最適な場所に配置することで、顧客の不満を大幅に軽減できると確信している」とヴェマナ氏は述べた。
ただし、Targetのような大規模企業で新技術を全社的に展開するには、従業員への教育と安全な企業システム内での実験環境が不可欠だ。
フィデルケ氏は8月の説明会で、Target全体で1万件以上の新しいAIライセンスを導入したと明らかにした。これは、従業員のAI知識を底上げするための取り組みの一環であり、ヴェマナ氏によると、米OpenAI社を招いた社内研修も実施したという。
ヴェマナ氏は「AIは確かに破壊的な技術だが、Targetにとってまったくの未知ではない。既にロイヤルティプログラム(顧客会員制度)でも活用していた」と説明する。
「ここ最近は特に生成AIへの取り組みを強化している。従業員がChatGPTのようなツールを使って生産性を高められるよう、知識の基盤を整備している」と語った。
OpenAIは小売業界への進出を加速しており、消費者が複雑な検索クエリで商品を探す傾向を強めている。Targetの経営陣もこの変化に以前から注目していた。
最近では、ChatGPT上で外部サイトを離れずに購入できる「インスタントチェックアウト」(Instant Checkout)機能がECサイトの「Etsy」(エッツィ)や「Shopify」(ショッピファイ)で導入され、Walmart(ウォルマート)も今後、OpenAIと連携して従業員研修を行う計画を発表している。
さらに2024年10月、OpenAIはChatGPT上でSpotify(スポティファイ)やZillow(ジロー)などと連携した対話型アプリ群を発表した。ユーザーが「新しい家を探したい」と話しかけると、Zillowアプリがチャット内で立ち上がり、地図付きの物件リストを表示できるという。Targetも年内にこのアプリ連携に参加する予定の11社の一つとして名を連ねている。
Targetはまた、AIモデルを特定ベンダーに固定しない「モデル非依存(model-agnostic)」方針を採用し、社内のソフトウェア開発者らが新しいアイデアを試すための実験環境「ThinkTank」を運用している。
「ThinkTankでは、使用するAIモデルをすぐに切り替えられる。特定のプロバイダーや手法に縛られず、問題解決の自由度を保てるのが強みだ」とヴェマナ氏は述べた。
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