従業員のキャリア形成や異文化理解、人材育成、人材配置面で、転勤にはメリットもある。実際に同社内でも「『転勤が社員の成長を促す』という考えが社内にあり、本制度の導入により成長機会が減少するのではないか、また、各地域の事業戦略に応じた最適な人員配置が困難になるのではないか、といった懸念があった」と振り返る。
「これらの懸念について、慎重に検証を行いました。転勤がもたらす成長機会や人員配置の柔軟性といった要素を完全に否定するものではありませんが、転勤が必ずしも成長に直結するという明確なエビデンスは得られませんでした。むしろ、人材の流動化が加速する現在の労働市場において、望まない転勤による人材の流出リスクのほうが、企業にとってより深刻な課題であると判断しました」
「市街地から空港が近く移動にも便利で、福岡はすごく住みやすい街。東京のころは満員電車で片道50分ほどかけて通勤していたが、今は10分程度と、身体的にすごく楽ですし、その分心にゆとりができた気がします」──山﨑さんは、福岡への移住についてこう語る。
Work@Homebaseの導入で、プライベートな事情で居住地を変更せざるを得ない社員の退職がほぼなくなったと、同社は説明する。また、旧一般職の女性社員がキャリアアップにチャレンジするケースも増えた。
「若手層のニーズに合致しており、この制度ができる前と比べてAIGを就職希望先として選択する学生が増加。また、即戦力となる同業他社の人材が、本制度に魅力を感じ、地元勤務を目指して中途入社するケースも増えています」
山﨑さんは、Work@Homebaseがあったことで、移住について具体的な話を進められたと振り返る。「この制度がなかったら会社を辞めるか、ずっと別居選ぶか──、どちらかの選択肢しかなかったと思います」
「会社が『家族を大切にしましょう』とメッセージを伝えてくれていることがありがたいですね。ライフステージの変化によって、今と同じ環境にいられなくなったとしても安心して働けるなと感じましたし、その制度を使って働かせてもらっている分、会社に貢献できるようにしたいと思うようになりました」
働く環境が変わったことでマインド面に変化があった。東京の支店で働いていた時は、周りのメンバーが年上社員が多かったが、福岡支店は若いメンバーが多いという。
「福岡支店には、これから活躍していただきたい世代のメンバーがたくさんいるので、自分の経験値の中でいろいろアドバイスをしたり、相談に乗ったりもできるのではないかと感じています。仕事と生活を両立できるいい会社だと感じてもらい、メンバーに『(会社に)貢献したい』と思ってもらえるような環境作りができたらいいなと思いますね」
同社は、社員の人数の少ない地方エリアで、人材の流動性が減ってきていると現状の課題を挙げる。「これにより、組織の活性化や新たな知見・スキルの流入が限定的になる可能性を認識しており、現在、この課題に対して段階的に対応を進めています」
「今後は、社員のパフォーマンス向上施策と本制度の相関性を持たせることで、希望地域で高い成果を継続的に出している社員が、より安定的にその地域での勤務を継続できるといった会社方針を発信していきます。同時に、社員が成長できる機会を会社として提供することで制度全体の健全性を維持していきます」(AIGグループ担当者)
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