DXが進む現代社会において、今も人手に頼った管理を強いられている業務がある。駅や商業施設の「落とし物」管理だ。
警察庁の発表によると、2024年の落とし物届出数は約3128万点で、過去最多を記録した。落とし物は落とし主だけでなく、預かる駅や商業施設といった事業者側を悩ませている。落とし主からの問い合わせ対応や、落とし物の管理負担に時間や人手を割かなければならないからだ。
こうした課題を解決するべく誕生したのが、find(東京都港区)が提供する落とし物クラウドサービス「find」だ。AIを活用して落とし物を探すサービスで、駅員など現場スタッフが届いた落とし物をスマホで撮影し、findに登録。落とし主はLINE経由で落とし物の写真、色や大きさといった特徴を入力し、問い合わせる。問い合わせの内容と登録された落とし物をAIが自動照合し、一致している可能性が高いアイテムをピックアップする。その結果を見ながら、オペレーターが最短5分、最大1時間以内に回答する仕組みだ。
同社にはオペレーターが50人ほど在籍している。黒い手袋など特徴がないアイテムは、落とし主と直接やり取りし、ブランド名や素材など詳細情報を尋ねて絞り込んでいく。インバウンド向けに多言語での問い合わせにも対応している。
実際にfindを導入している東京モノレールの宮田久嗣社長は「旅先での落とし物はCX(顧客体験)を著しく損なう。以前は外国のお客さま対応に1時間かかることもあったが、導入後は問い合わせセンターへの入電が、726件から283件に激減。落とし物のマッチング率も40.8%まで向上した」と効果を語る。
同じく導入企業である日本交通の川鍋一朗取締役は「約8000台ある日本交通タクシーの忘れ物件数は、月に3000件ほど。対応時間は月に約1000時間で業務を圧迫していたが、導入後50%削減できた」と振り返る。
find導入により各社の落とし物対応業務の効率化は進んでいるが、解決しきれない課題もあった。どこで落としたか分からない場合の問い合わせだ。この場合、落とし主は心当たりがある複数の場所に問い合わせる必要があった。企業側は、自社で保管していないかもしれない落とし物の問い合わせにも対応する必要があり、双方に手間や無駄が発生していた。
そこでfindは12月から、導入している複数の交通事業者や商業施設で拾得された落とし物を、横断的に検索できる新機能を開始。導入企業ごとに管理していた落とし物情報を一元化することで、落とし主は一度の問い合わせで複数の場所や施設を選択できるようになった。
例えば「タクシー、モノレール、JR」と乗り継いで移動した場合でも、find加盟企業であれば1回の問い合わせから横断して探せる。加盟企業にとっては、他社での紛失に関する問い合わせが、自社に来てしまう課題を減らせるというメリットがある。川鍋氏は「お客さまはどのタクシー会社に乗ったか覚えていないことが多い。他社まで含めて『ない』と確信を持って答えられる、あるいは見つけられるのは現場にとって非常に強力」と評価する。
2026年4月からfind導入を決定したJR東日本の喜勢陽一社長は「JR東日本では年間200万件の忘れ物があるが、返却率は3割程度。お客さまの『どこに問い合わせればいいか分からない』というストレス、社員の『落とし物の特徴や情報を入力するのに5分かかる』という作業ストレスをfindとの連携で解消し、登録・検索時間を半分以下にするのが目標だ」と期待を寄せる。
findは1年以内に100社弱、3年後に500社導入に向け、まずは遺失物数が多い交通機関を中心に拡大。長期的には、地方の百貨店やテーマパークなどにも展開する予定だ。2030年までに売り上げ100億円、国内拾得数の40%をカバーすることを目指す。
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