生成AIは「例」を見せると賢くなる 言語学者が教える、上手な指示の出し方とは?

» 2026年01月22日 08時00分 公開
[佐野大樹ITmedia]

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この記事は、佐野大樹氏の著書『生成AIスキルとしての言語学 誰もが「AIと話す」時代におけるヒトとテクノロジーをつなぐ言葉の入門書』(かんき出版、2024年)に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 人に説明をするとき、例を提示することはよくあるが、生成AIにも例を与えることは有効だ。Googleで生成AIの開発に従事するアナリティカル・リングイストである佐野大樹氏は、「数学の問題などを解く過程を例としてプロンプトに含めることで、生成AIの正解率が上がるという報告もある」という。

 佐野氏が執筆した『生成AIスキルとしての言語学』より、生成AIへの例の提示方法を解説する。

生成AIにも「例」を示すことは有効だ。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

生成AIに「例」を提示する効果

 言語学では、言葉の選択肢(例えば、発話機能には、陳述、質問、オファー、指示の4つの選択肢がある)が、発話や文として表現されたとき、その表現されたもののことを例、もしくはインスタンス(例えば、選択肢として質問が選ばれ「生成AIとはどんなものですか」と発話する)と言います。

 選択肢を例で表すという考え方は、生成AIの知識やスキルを引き出す上で、非常に強力なテクニックになります。

 生成AIとの対話では、ここで言う「選択肢」は、プロンプトに記載した状況設定や指示/質問の説明のことです。

 状況や指示の内容を実際に表したものが「例」になります。

 プロンプトに記載した状況設定や指示/質問の説明だけでは伝わらないことがある場合でも、例を生成AIに提示してあげることで、状況設定や指示/質問の説明の意図を、生成AIと共有することができます。

 これによって、状況や指示をより反映した回答結果を得ることができます。

 人とのコミュニケーションでも、指示を説明したけれども伝わらなかったが、一度実際にやってみたら分かってもらえた、というような経験があるのではないでしょうか。これと類似した方法が、生成AIとの対話でも活用できます。

例を「提示した場合」と「しない場合」で回答はどう変わる?

 具体的に、例をプロンプトに含めない場合と、含める場合とで、生成AIの回答がどのように変わってくるのかを見てみましょう。

 ここでは、脚本家が、自然の不思議について説明するのが好きなゆるキャラのセリフを考えるのを、生成AIに手伝ってもらうという設定で考えます。

 自然現象について伝える文を、ゆるキャラっぽい発話に書き換える手伝いを生成AIにしてもらいましょう。

 まずは、プロンプトに例を含めない場合です。

プロンプト(1)セリフのスタイル調整(例なし)

#指示:もふもふワンコゆるキャラの発話っぽく次のセリフを書き換えて。

#セリフ(入力値):鳴き砂とは、砂の上を歩くとキュッと鳴る砂のことです。

生成AIの回答

書き換え後のセリフ:わん、鳴き砂って知ってる? 砂の上を歩くとキュッキュッて鳴るんだよ。不思議でしょ?

 生成AIは、犬のキャラということで「わん」とセリフをスタートしています。

 しかし、「もふもふワンコゆるキャラの発話っぽく」という指示だけでは、それがどういった話し方なのかが分かりません。

 そこで例をプロンプトに含めて、「もふもふワンコゆるキャラの発話っぽく」という概念を具体化すると、どのような話し方になるのか、いくつか例を与えます。

 「く〜ん」とつけるのがこのキャラの話し方の特徴と想定します。

プロンプト(2)セリフのスタイル調整(例あり)

#指示:もふもふワンコゆるキャラの発話っぽく次のセリフを書き換えて。

#例:

セリフ:流れ星の正体は、彗星や小惑星などの天体から放出されたチリの粒です。

書き換え:流れ星はく〜ん、彗星や小惑星なんかから出たく〜ん、チリなんだ

セリフ:氷(こおり)は、水が固体の状態のことを指します

書き換え:氷(こおり)はく〜ん、水がく〜ん、個体の状態のことをく〜ん言うんだく〜ん

#セリフ(入力値):鳴き砂とは、砂の上を歩くとキュッと鳴る砂のことです。

書き換え(出力値):

 プロンプトに例を加えたことで、生成AIに「もふもふワンコゆるキャラの発話っぽく」とはどのようなものかを伝えることができました。今度は文末に「く〜ん」を使って、原文を書き換えてくれています。

生成AIの回答

もふもふワンコゆるキャラの発話っぽい書き換え:鳴き砂ってく〜ん、砂の上を歩くとキュッと鳴く砂なんだく〜ん。不思議だねく〜ん。

 このように、例は、生成AIに伝えた状況設定や指示を、どのように回答へ反映させればいいのかを生成AIに伝える有効な手段になります。

指示がうまく伝わらない場合に「例」が有効

 ちなみにプロンプトエンジニアリングでは、例を含めないプロンプトのことをゼロショット(zero-shot)、例を含めて書かれたもののことをフューショット(few-shot)と言います。

 なお、例として示すことができるのは、回答の参考例だけとは限りません。

 例えば、数学の問題などを解く過程を例としてプロンプトに含めることで、生成AIの正解率が上がるという報告もあります(「思考の連鎖」と呼ばれるテクニックです)。

 生成AIに状況設定や指示/質問の説明がうまく伝わらないときは、例をプロンプトに含めることで、それらをどう回答に反映させたらいいかを教えて、生成AIの能力を引き出してみてください。

 なお、一般的に、同じような例を複数入れると、生成AIはそれにできるだけ従おうとして、例と同じようなものを生成する傾向が強くなります。例を一つだけ見せても生成AIの回答が変わらない場合は、複数の例を提示してみるのもよいでしょう。

 また、生成AIにさまざまなバリエーションを作成させたい場合は、似たような例を複数含めるのでなく、特徴が異なる例をいくつか提示してあげたほうが、より生成AIの柔軟性、適応性を保てる傾向にあるようです。

 なお、例を提示するときには、設定した状況、指示や質問の意図と、提示する例とが合致しているかを確認するようにしましょう。

著者プロフィール:佐野大樹(さの・もとき)

Googleで生成AIの開発に従事するAnalytical Linguist。人工知能に言葉を教えるスペシャリスト。オーストラリア国立ウーロンゴン大学にて言語理論の研究で博士(Ph.D)取得後、国立国語研究所で『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の構築に従事。プロジェクト終了後、情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所にて、災害時の問題-対応策ツイートのマッチングや含意データベースの開発を行う。2014年より現職。


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