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「環境に優しいは本当なのか?」 批判も“資産”に変えた衛生用品メーカー・サラヤのVoC経営

» 2026年02月16日 07時00分 公開
[中根ほづ美ITmedia]

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2026冬 開催決定!

学研が挑む"真のDX"──「本当に使われるデジタル」で目指す教育価値のバリューアップ

【開催期間】2026年1月27日(火)〜2月25日(水)

【視聴】無料

【視聴方法】こちらより事前登録

【概要】学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。

本稿は、1月27日にラーニングイットが開催した「『VoC(顧客の声)活用実態調査』報告セミナー&カンファレンス」を取材したもの。


 「環境に優しいと言いながら、動物を傷つけているのではないか」――。かつて、衛生用品メーカーのサラヤ(大阪市)には、あるテレビ番組の放送をきっかけに、こうした声が寄せられた。

 同社は「ヤシノミ洗剤」など、家庭用・業務用の洗浄剤や消毒剤などを販売している。創業当初から「人と地球にやさしい」商品作りを掲げ、天然素材を用いた商品を展開してきた。

 しかし2004年、その姿勢が問い直されることになる。テレビ番組が「ヤシノミ洗剤」の原料であるパーム油の生産地、マレーシア・ボルネオ島の環境問題を特集。熱帯雨林の伐採が進み、野生動物が住処を失っている現実が伝えられた。

 自社が使用するパーム油の量は、大手メーカーと比べれば決して多くはない。それでも同社は「自分たちも無関係ではない」と考え、寄せられた声を真正面から受け止める選択をした。

 同社は森林伐採によって分断された動物の移動経路をつなぐため、ボルネオ島に吊り橋を設置。さらに、売り上げの一部を現地の環境保全活動やユニセフの手洗い普及活動などに充ててきた。

 「環境への取り組みは、企業の自己満足であってはならない。お客さまや社会の声に耳を傾け、一緒に進めていくことが重要だと実感しました」とCRM部の部長である大原雅章さんは振り返る。

photo01 サラヤ コミュニケーション本部CRM部の部長を務める大原雅章さん(編集部撮影)

 この出来事は、同社にとって一つの転機となった。顧客の声(VoC)を、単なる問い合わせや苦情として処理するのではなく、経営や事業の方向性を左右する“資産”として捉える――。サラヤのVoC活用は、ここから一段と踏み込んだものへと進化していった。

縦割り組織に散在する“声” どう束ねる?

 大原さんが率いるCRM部では、コールセンターに寄せられる問い合わせなどの顧客対応と、VoCを分析して社内に発信する役割を担っている。

 同社が定義するVoCは、顧客から直接寄せられた声に限らない。営業日報の中に埋もれている「営業先からこのような意見があった」「こんな理由で取引に至らなかった」といった記述や、コールセンターのオペレーターが感じる「商品の説明しづらさ」、SNS上での口コミなどもVoCとして捉えている。競合他社に対する評価も「自社の特徴を認識するためのVoC」と位置付けているという。

 「不満や意見を持っている全てのお客さまが、コールセンターに連絡をくれるわけではありません。寄せていただく声を受け身で聞くのではなく、取りに行く姿勢が必要だと考えます」(大原さん)

photo02 コールセンターや営業現場に集まる声、SNSの口コミ、競合評価に至るまで、幅広い情報をVoCとして束ねる(提供:ゲッティイメージズ)

 同社がVoC活用で目指すのは、CRM部だけでなく、全ての従業員が自分事として顧客の声を理解し、各現場で生かすことだ。

 しかし、いざ顧客の声を事業に生かそうとしても、多くの企業が「組織の縦割り」による情報の分断という壁に直面する。サラヤもその例外ではなかった。

 家庭用、医療用、業務用と多岐にわたる事業を展開する同社では、営業部門だけでも、領域ごとに得られる情報やデータの仕様が異なっている。そこにコールセンターに集まる情報やSNSの声なども合わせるとなると、データの横断的な活用は一層難しくなる。

 そこで同社が進めたのが、テキストマイニングを活用した情報の一元化だった。異なる切り口のデータを完全に一元管理することは難しいが、表示するシートを分けることで一つのプラットフォームで見渡せるよう工夫している。

 現在は、部門ごとにバラバラなデータをCRM部が人力で分類しているが、今後は生成AIによる自動分類や傾向分析の導入も視野に入れているという。

若手に選ばれる部署へ 顧客対応部門の進化

 企業に集まる声は、必ずしも前向きなものばかりではない。むしろ目立つのは、不満や疑問、商品の不具合を指摘する声だ。

 VoCを基に商品の不具合を監視し、迅速に品質保証部門や営業に共有する。これは守りの活動に見えるが、実は、新たな価値創出につながる可能性を秘めていると大原さんは語る。

 「困っている」という声は、裏を返せば改善の余地を示している。不具合対応を単なる火消しで終わらせず、改善や提案につなげることで、VoCは攻めの起点になる。

 この視点は、社内における顧客対応部門の位置付けそのものを見直すことにもつながる。

 コールセンターなどの顧客対応部門は、企業活動を支える重要な役割を担う一方で、その意義が社内で十分に認識されないケースもある。だが、VoCが事業や改善に直結する実感が持てれば、仕事の意味は大きく変わる。コールセンターで顧客対応を実際に経験しながらデータやAIを使いこなし、全社視点で物事を見る――。そうした経験を積める場として位置付けることができれば、若手社員にとっても魅力ある部署になり得る。

 「VoC活動を担う部署の重要性が社内に浸透し、人気を集める部署になることが企業の持続的な成長に必要だと考えます」(大原さん)

 サラヤのVoC活動は、顧客対応部門をコストセンターではなく、企業価値を生み出す起点へと再定義する挑戦でもある。顧客の声を資産として扱う姿勢が、同社の成長を支える原動力になっている。

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2026冬 開催決定!

学研が挑む"真のDX"──「本当に使われるデジタル」で目指す教育価値のバリューアップ

【開催期間】2026年1月27日(火)〜2月25日(水)

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【概要】学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。

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