リテール大革命

EC化率「28%の英国」と「9.8%の日本」――約3倍差の正体は? 視察で見えた「本当の主役」 がっかりしないDX 小売業の新時代(4/5 ページ)

» 2026年05月20日 06時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

【事例】EC化率17%のドラッグストアBoots 地域の健康相談拠点に

 Click & Collectを上手に活用している企業として、筆者は英国の食品小売業第2位のSainsbury'sと、百貨店のJohn Lewis Partnershipの2社に注目しています。こちらについては、次回以降の連載で取り上げます。

 今回は、一時日本にも進出していたドラッグストア企業のBootsについて取り上げます。

 Bootsの2025年Q3決算ではboots.comの売り上げが前年同期比18.7%増と成長し、オンライン経由売り上げ(自宅配送+店舗受け取り)が小売りの売り上げ全体の17%を占める水準まで到達しました。

 健康・美容という比較的オンライン化が遅れがちなカテゴリーで17%に達しているのは特筆すべきレベルです。

 ここで前提となる仕組みについて、簡単に補足します。NHS(National Health Service)は英国公的医療制度で、原則無料で医療サービスを提供する世界最大級の国営医療システムです。一方、需要過多によりGP(家庭医)の予約が数週間待ちというのが常態化しており、慢性的なパンク状態にあるのが実情です。

 その解決策として2024年1月にNHS Englandが開始したのが「Pharmacy First」です。これは、副鼻腔炎・咽頭炎・耳痛・虫刺され感染・とびひ・帯状疱疹・女性の合併症のない尿路感染症という7つのよくある症状について、GPを受診せずとも薬局の薬剤師が個室の相談ブースで臨床的評価(clinical assessment)を行い、必要に応じて処方薬の提供までを完結できる仕組みです。

 法的根拠はPGD(Patient Group Direction、集団指示書)と臨床パスウェイで、医師の個別処方を介さず、事前に定められたプロトコルに沿って薬剤師が判断・薬剤供給できる設計となっています。Bootsをはじめとする英国の薬局は、もはや「薬を売る場所」ではなく「一次医療相談の入口」へと役割を拡張しているわけです。

EC Bootsの個室相談ブース(2026年4月筆者撮影)

 Pharmacy Firstを最大規模で運用しているのがBootsです。NHSの繰り返し処方箋(repeat prescription)をオンラインで申請でき、受取手段は「全国Boots薬局でのClick & Collect」「英国内無料宅配」を選べます。一般用医薬品・化粧品のEC注文も同一アプリ内で完結し、最短で当日に店舗受取ができます。

 つまり、Bootsの店舗網2000拠点が、事実上の「健康・美容オムニチャネル物流ネットワーク」であると同時に「地域の健康相談拠点」としても機能している構造です。

 Bootsの一強というわけではありません。健康・美容第2位のSuperdrug(香港AS Watson傘下、英国・アイルランドで約780店舗展開)も、オンライン注文から最短30分で店舗受取が可能なQuick Click & Collectを標準提供しています。

 2026年には30店舗の新規出店を計画しており、店舗網×ECの両輪戦略をさらに加速させている最中です。

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