この仕組みの価値は、寸法の誤りを見つけることだけではありません。運用を続けると、次のデータが蓄積されます。
- 約5000件の人手による正解ラベル
- 社内担当者による品質確認の結果
- AIが問題ありと判定した商品
- 仕入先が確認・修正した結果
- 特殊な形状や複数パーツ商品に対する判断基準
これは、先ほどの「事実・文脈・判断・結果」が業務の中で結び付いた状態です。
競合企業も同じAIモデルを契約できますが、同社の担当者と仕入先が蓄積した確認結果までは買えません。
判断にAIを使うほど、自社固有の判断データが増えます。そのデータによって、次の判定精度が上がるのです。ウェイフェアが築いているのは、単発のAI機能ではなく、この循環だといえます。
ウェイフェアは、商品タグの検証にもマルチモーダルAIを使っています。
商品タグは、素材、形状、部屋、スタイル、色、収納機能、組み立て方法など、検索、絞り込み、推薦を支えるデータです。タグが誤っていれば、商品が検索結果に出にくくなり、絞り込みの信頼性も下がります。
課題はコストです。同社は当初、100万商品を検証するパイロットの推論費用を約40万ドルと見込んでいました。そこで5人の機械学習担当者が3日間で110通りの構成を検証しました。
見直した対象は、モデルのほか、複数タグの一括処理、プロンプト構造、出力形式、使用画像など、システム全体に及んでいます。結果として、推論コストを当初予測比で94%削減しました。
「高性能なモデルを採用したら終わり」ではありません。精度、見逃し、誤検知、推論費用を継続的に測り、業務として成立する水準まで調整しています。
ウェイフェアの顧客対応AI「Wilma」にも、同じ設計思想が見られます。
Wilmaは顧客情報、注文情報、商品情報などを基に、問い合わせへの回答案を作成します。AIが顧客へ直接送信するわけではありません。担当者が内容を確認し、必要に応じて編集してから送信します。
同社が公表した資料によると、Wilmaを使う担当者は対応が12%速くなりました。ポリシーの順守も、問い合わせの種類に応じて2〜5%向上しています。
ここでも、AIと人の役割が明確です。
AIは、情報の収集と回答案の作成を担います。最終判断は、顧客とのやり取りを把握した担当者が担います。
さらに、担当者が採用した回答、編集した箇所、使わなかった提案を記録すれば、それ自体が次の改善データになります。
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