検証! 日本の自動車メーカーがやるべきこと:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
これまで数回にわたり日本の自動車メーカーの戦略を論じてきた。今回はその総括と、これから先に国産メーカーが進むべき道筋を考えたい。
7回にわたって日本の自動車メーカー各社の戦略を見てきた。今回は全体を総括する話をしてみたい。2020年代に向けて日本の自動車メーカーの置かれている状況、こなしていくべき課題を俯瞰的にとらえ直してみることは興味深い。
「攻め」と「守り」どちらで行くのか?
自動車メーカーの戦略は大きく分けると「攻め」と「守り」だ。攻めが意味するのはいうまでもなく新規市場の開拓と販売台数の積み上げだ。この戦略を取る以上、A、Bセグメントに重点的にリソースを投入せざるを得ない。世界の自動車マーケットで大きな台数拡大の余地があるのはこのクラスだけだからだ。
そのためには、安価で燃費が良く、新興国でも整備が可能なクルマを作っていくことが必要だ。この戦略で成功しているのはスズキとダイハツである。
面白いのは日産で、800万台規模の生産台数を持ちながら、全方位攻略を目指すトップグループへの参入を諦めて、新興国マーケットにリソースを集中し始めている。先頭グループで後塵を拝するより、セカンドグループでトップを獲る戦略である。日本のユーザーにとっては悲しいことかもしれないが、選択と集中という基本に則った手堅い戦略だ。
一方で守りとは、日米欧の3つのマーケットのうち、自社が得意とするマーケットで、ロイヤリティユーザーをしっかり囲い込み、少しずつその範囲を拡大していくことを言う。そのためには、ユーザーが自社の何を「ユニーク価値」だと評価してロイヤリティユーザーになっているのかを冷静に把握し、揺るがない軸を堅持しつつ着実な進歩をしていくことが重要だ。
守り戦略で重要なのは現在と未来のバランス
難しいのは、ユニーク価値の将来的発展可能性が限られている場合だ。例えば、スバルの水平対向エンジンはそこが難しい。高コストな資質は高付加価値として転嫁する方法があるので脇へ置くとしても、残念ながら水平対向エンジンは、技術的な発展に並外れて苦労が伴う。
まず、素養として燃費が悪い。改善のためレスシリンダーをやろうとしても奇数気筒への変更が難しく、排気の取り回しに制約が多すぎるため、EGR(排気ガス再循環)や過給と言った今注目されているブレークスルー技術でもコンベンショナルなエンジンより手間ひまがかかる。
可変バルブタイミングを使ったミラーサイクルやポンピングロスの低減を図ろうとすれば、直列エンジンなら1つのバルブ駆動系が2系統ある分、コスト、重量、サイズで不利になる。それでもスバルはこうした要素技術のいくつかにチャレンジしているが、本来しなくていい苦労まで背負っているわけだ。だからと言って簡単に水平対向を止めるわけにもいかない。辛いところだ。
ハイブリッドにも手を付けたものの、ハイブリッドに期待される燃費を出せるシステムにはなっていない。それをスバルは「スポーツハイブリッド」だと主張しており、確かにシステムにはそういう可能性を感じる。しかし、それはいわゆる低燃費ユニットではないのだ。
こと低燃費に関する限り、水平対向の出口は恐らくディーゼルだ。既にスバルは欧州で水平対向ディーゼルを販売している。原理的に、燃焼によって起きる振動を対向するピストンが互いに打ち消し合う水平対向は、ディーゼルとの相性が抜群に良い。そういう意味では新時代ディーゼルのスターになる可能性があるのだ。直列4気筒では、振動を消すため必須のバランサーシャフトがいらないため、フリクションが減って燃費にも有利に働く。しかしながら、日本市場投入がウワサされてから既に5年は経っているのにいまだ行く先が見えない。
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