検証! 日本の自動車メーカーがやるべきこと:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
これまで数回にわたり日本の自動車メーカーの戦略を論じてきた。今回はその総括と、これから先に国産メーカーが進むべき道筋を考えたい。
この間日本に投入されなかったのには理由がある。昨年まで欧州のディーゼル規制は日米の規制に比べるとだいぶ緩かった。つまり水平対向ディーゼルは日本の規制をクリアできず、ずっと棚上げになっていたのだ。しかし昨年から欧州の規制が日本並みに厳しくなった。当然スバルは新規制への適合作業を行った。水平対向では自ずとつらくなる排気系の取り回しの問題から窒素酸化物(NOx)と黒煙(PM)の浄化装置の取り付けスペースが取りにくい点では相当な苦労があったはずだ。
コストの問題なのか、生産設備の規模的問題なのか理由は分からないが、この新世代ディーゼルは欧州での発売から1年以上が経過した今も日本での発売は未定だ。マニュアルトランスミッションしか選べなかった問題もCVT(Continuously Variable Transmission、無断変速機)投入で解決済みのはずなので、スバルは早くこのディーゼルを戦略ユニットとして日本市場に投入すべきだろう。各社が躍起になって採用している最新の低燃費/低排出ガス技術はどれも高いハードルを必死に超えてきたものだ。その進歩は今後も続く。出し惜しみをしている間に陳腐化してしまうのはあまりにもったいない。
マツダもかつては同じ状況にあった。ロータリーは技術的にさまざまな課題を抱えており、マツダブランドの核でありつつ、未来への制約になっていた。マツダは歯を食いしばってレシプロ・ディーゼルという新たな出口をつかみ取った。それでも「ロータリー撤退宣言」は出すわけにはいかない。そこにまだマツダを支えるファンの夢が詰まっていることを理解しているからだ。
マツダもスバルも、未知のブルーオーシャンに進出するアニマルスピリットよりも、もっと身近で、顔の見える顧客との関係を維持拡大していく戦略を取っている。だから看板技術は大事にしなくてはならない。問題はその先に確かな未来予想図が描けるかどうかにかかっている。やはりキーになるのは低燃費技術だ。現在のところ、少なくとも国内で見る限り、そこに到達しているマツダと、それをどうしていくつもりなのかが判然としないスバルの状況は対照的だと筆者は見ている。
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