検証! 日本の自動車メーカーがやるべきこと:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
これまで数回にわたり日本の自動車メーカーの戦略を論じてきた。今回はその総括と、これから先に国産メーカーが進むべき道筋を考えたい。
低燃費エンジンがカギ
さて、全体を整理しよう。まずは絶対的に必要なことは低燃費エンジンをラインアップすることだ。燃費の水準はどんどんレベルアップしている。現在「普通の燃費」のエンジンは間もなく「大食らい」のレッテルを貼られることになる。いろいろな種類のエンジンをポンポンと独自設計で作れる時代は終わった。現時点ではモジュール設計以外に次世代選択肢はほぼ無い。
ハイブリッドはトヨタのパテントでがんじがらめなので、多くのメーカーは、ミラーサイクル(アトキンソンサイクル)にマルチポイントインジェクションとEGRを組み合わせた進化型のガソリン直噴ユニットの開発に向かっている。どの技術も狙いは上手に燃料を燃やして効率良くエネルギー変換することだ。
熱効率を考えれば1気筒あたりの排気量は450ccから500ccがベストだということは既に分かっている。1気筒あたりの排気量を変えると、燃焼室の基礎設計をやり直さなくてはならないから、恐らく500cc決め打ちになるだろう。固定すれば設計が使い回せる。そうなると3気筒1.5リッターと4気筒2.0リッターの2本立てが現実的だ。
余談だが、それ以上のパワーを求めるならシリンダーを増やすよりハイブリッド化した方が効率が良い。後はパテント問題次第だ。パテント問題の解決が難しければV6の3.0リッターになるが、3気筒用ブロックを流用したとしてもクランク周りは新設計になり、コストで不利にならざるを得ない。しかもV6ユニットの生産数は決して多くないだろうから、回収が難しい。となると6気筒エンジンは他社とアライアンスを組んでエンジンを融通し合うことになるだろう。中型車が売れなくなった今、2.0リッター以上のユニットをどう採算に乗せるのかは難しい問題だ。
本題に戻ろう。熱効率の高いユニットであるためには当然高圧縮比でなければならない。1.5と2.0という2種類の排気量バリエーションで、多くの車種を賄うためには、上のクラスでは過給は必須になるだろう。レスポンスを重視すれば日産のようにスーパーチャージャーになる。もちろんターボもあるだろう。それらを織り込んだ汎用性の高いモジュラー設計ユニットになってくるはずだ。普及クラスの自然吸気で120馬力近辺、高付加価値の高過給エンジンなら250馬力くらいまでこれでいける。
さらに同じブロックを使った低圧縮型ディーゼルが加わる可能性は高い。トルクの大きいディーゼルターボなら、2トンクラスの車両までこのエンジンで対応できるはずだ。これに2020年までにHCCIエンジン(予混合圧縮着火ガソリンエンジン)が加わるかどうかが1つのポイントだ。
こうしたエンジンは変速機の優劣で性能が大きく左右される。大きなレシオカバレッジ(変速比幅)と、そのワイドなレンジをカバーする多段化を考えれば、先進国向けはトルコンステップAT、新興国向けはロボット変速のAMTに収斂(しゅうれん)していくだろう。
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