検証! 日本の自動車メーカーがやるべきこと:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
これまで数回にわたり日本の自動車メーカーの戦略を論じてきた。今回はその総括と、これから先に国産メーカーが進むべき道筋を考えたい。
自動運転と介護車両
先進国マーケット向きには、自動ブレーキとその延長にある自動運転も大切だ。自動ブレーキではセンサー方式に答えが出つつある。スバルやスズキのステレオカメラ方式が自動ブレーキの基本になるはずだ。高機能モデルではこれにミリ波レーダーが組み合わされるだろう。レーザーレーダーはもはや価格以外のメリットがない。何よりも歩行者が検知できない点で付加価値が低すぎる。
問題は現在基本システムをレーザーレーダーに置いて、ミリ波レーダーとカメラを機能拡張オプションにしているメーカーのシステムだ。過去の遺産もいろいろとあるのは分かるが、それはサンクコストだ。とっとと諦めて再構築した方がいい。特にこの件では、世界トップの自動運転技術を持つクレバーなトヨタがシステム構築を読み違えているのが不可解だ。
自動運転とともに、高齢化対策としての介護車両もビジネスとして大きな比率を占めてくる(関連記事)。介護車両への取り組みはビジネス面でも無視していられない。
経済系ジャーナリストがクルマの話をすると「エンジンは無くなってモーターになり、トランスミッションもいらなくなる」というような未来予想を簡単にする。垂直統合型から水平分業になり、従来の自動車メーカーのアドバンテージは消失して、コモディティ化の先に大量の新規参入による新たな秩序が生まれると言うのだ。
そんなことは起きない。クルマ作りで本当に難しいのは、ちゃんと走って曲がって止まることだ。エンジンさえ買ってくればクルマができるというのは終戦直後くらいの話であって、クルマをちゃんと走らせるのはそんなに簡単なことではない。信頼性の面でもバグがあるのは当たり前のITの世界とは決定的に違う。グーグルカーやテスラの状況を見ていると、信頼性への考え方に抵抗を覚える。
日本の自動車メーカーはそういう基礎的な部分をしっかりと積み上げてきた。その先の未来にまだまだ課題はあるが、畳を交換するように新しいメーカーと世代交代できるほど自動車作りは甘くない。次の10年も日本のクルマが日本人の生活に寄り添っていて欲しいと筆者は願っている。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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