信州特急「あずさ」に新車が入ると伊豆特急「踊り子」が快適に?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
新型電車の登場は明るい話題としてニュースになる。新しいデザインは未来を感じさせてくれるし、新しい技術はスピードと快適な乗り心地を予感させる。でも、鉄道ファンは新型を歓迎するだけではなく、旧型の行方も気になってしまう。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
試作車と量産先行車の違い
JR東日本は8月2日、新型特急電車「E353系」の量産先行車を報道公開した。E353系は東京駅と松本駅を結ぶ特急列車「スーパーあずさ」向けに開発された。量産先行車とは「試しに1編成を作ってみて、試運転や営業運転をしながらデータを取る車両」だ。そのデータを基に改良を重ねて量産車を製造する。量産先行車は完成度が高いから、ほとんどそのまま量産車になる場合がある。もし改良された部分がある場合は、逆に量産先行車の方を量産型と同じ仕様に改造して、営業運転を続行する。
量産先行車は、試運転するといっても、初搭載・初実験する機能はほとんどない。画期的な技術は量産先行車を作る前に「試作車(試験車)」を作って実験するからだ。実験の結果、採用が決まった技術を量産先行車に搭載するという段取りになる。量産先行車と試作車の違いは、「実際にお客さんを乗せて走るか否か」といえる。試作車は車内に実験機材を置いてデータ取得に専念する。仮に座席を置いたとしてもお客さんを乗せるわけではない。センサーを取り付けて乗り心地をテストするわけだ。
JR東日本の在来線特急用試作車として、1994年にE991系電車「TRY-Z(トライゼット)」が開発された。交流電化区間と直流電化区間の両方に対応する。設計上の最高速度は時速200キロメートル。油圧式ブレーキや曲線区間通過時に強制的に車体を傾斜させる技術などを搭載した。常磐線や中央本線で最高時速160キロメートルを達成し、急曲線区間で在来車両の制限速度を超える速度で走行させたりした。そしてTRY-Zは最後に衝突安全実験を行って解体された。TRY-Zは、破壊される前提で作られた「悲運の車両」といえそうだ。
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