信州特急「あずさ」に新車が入ると伊豆特急「踊り子」が快適に?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
新型電車の登場は明るい話題としてニュースになる。新しいデザインは未来を感じさせてくれるし、新しい技術はスピードと快適な乗り心地を予感させる。でも、鉄道ファンは新型を歓迎するだけではなく、旧型の行方も気になってしまう。
E353系に息づくTRY-Zの遺伝子
試作車と量産先行車の関係をクルマに例えると、「サーキットで鍛え上げられた技術を市販車に搭載した」という形に似ている。TRY-Zの技術や安全性能は、その後のJR東日本の在来線特急車両に生きている。常磐線に投入されたのち、現在は羽越本線などで活躍中のE653系の外観にはTRY-Zの面影が残っている。
中央本線向けE353系も、TRY-Zの"遺伝子"がある。それは空気ばね式車体傾斜方式だ。急曲線区間で車体を内側に傾けて、遠心力とバランスを取る。在来車より曲線通過速度を上げつつ、乗り心地を改善する。
現在のスーパーあずさ用のE351系は振り子式車体傾斜方式を採用している。振り子式は台車と車体の間にコロを入れて、自然に発生する遠心力を利用して車体を傾ける。ただし、初期の振り子式はすべて遠心力に頼っていたため、S字カーブなどで揺り戻しが大きく乗り心地が悪かった。E351系は制御式振り子といって、初動時と動作終了時に空気圧で制御して乗り心地を改善している。
E353系はさらに進化して、すべて空気圧による傾き制御になる。もともと走行時の振動を車体に伝えないためのサスペンションに空気圧を使っているから、その圧力を常に変化させて傾きを制御するわけだ。これは東海道・山陽新幹線のN700系や東北・秋田新幹線のE5系・E6系で採用された技術とほぼ同じだ。
E353系はさらに、先頭車とグリーン車に動揺防止装置を採用した。これもE5系・E6系で実績がある。JR東日本はE353系の走行性能について「E351系と同じ」というけれど、乗り心地についてはさらに改善されたはずだ。もはや新幹線に準じた在来線車両である。私は学生時代に旧国鉄形電車のあずさに何度も乗っていたから、後年にE351系スーパーあずさに乗ったときは乗り心地の良さに驚いた。やがて落ち着いて熟睡してしまった。それくらい心地良かった。さらに進化したE353系の乗車が楽しみである。
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