超電導リニアを試乗「たいしたことない」、だからスゴい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/3 ページ)
JR東海は2014年度から超電導リニアの体験試乗会を開催している。たいそうな競争率のようで、何度か応募しつつも落選したけれど、この夏、やっと当選したので乗ってみた。意外にも新鮮な感動はなかった。新幹線と同じ乗り心地。ただし、それが時速500キロメートルで走行中ということを忘れてはいけない。
搭乗前検査は必要か否か
乗車以外でも確認したい施策があった。乗車手続きだ。2014年から始まった体験試乗会の第1回で、“搭乗”前に荷物検査と金属探知機の検査の様子が報じられた。これが開業時にも採用されると、恐らく日本の営業列車で初の施策になる。まるで空港のセキュリティだ。
しかし、そこには違和感もある。安全は大切だけど、もし空港のような搭乗前検査を実施するなら、旅客機と同じように発車15分前までに検査場に行く必要があるだろう。混雑時は検査場通過に1時間以上もかかるかもしれない。しかも、中央新幹線の品川駅、名古屋駅は大深度地下に作られる予定だ。駅に着いて、大深度地下に降りて、搭乗前検査を受けて……となると、品川〜名古屋間の走行時間が40分だとしても、所要時間は1時間を超えるかもしれない。
現在、羽田空港〜中部国際空港の航空便の所要時間は60分。搭乗前検査を含めると75分以上。超電導リニア中央新幹線は航空便よりも速く、しかも都市の中心を直接結ぶ。しかし、その速さのメリットが大深度地下と搭乗前検査で相殺されてしまっては意味がない。現在の新幹線のようにスムーズに乗車できて、欲を言えば自由席を設けて、駅に着いたらすぐ乗れる環境が望ましい。そんなことはJR東海も分かっていると思う。しかし、安全対策も必要だし、悩みどころだ。
体験試乗会の搭乗前検査は、あらかじめカバンを開いておき、身につけた金属類をかごに入れてゲートを通過する手順だ。事前準備と身支度を含めても2分ほどだった。旅客機に比べればスムーズだ。もっとも、1列車あたりの乗車人数が2両分で最大110人と少ないし、乗客は軽装だ。大きな荷物はコインロッカーに預けて、ほぼ日帰りの装備である。開業後は大きな旅行カバンを持った人も乗るし、L0系が12両編成で走ると定員は728人になる。そんな列車が頻繁に発着する駅で、搭乗前検査をさばききれるかどうか。
この搭乗前検査については、開業時に実施するかは未定とのこと。今回は係員がペットボトルのフタを開けて、液体の匂いをかぐという徹底ぶりだった。これは先日の新幹線焼身自殺事件を踏まえたという。いずれにしても、体験試乗会で万が一のことがあったら、開業に差し支えるかもしれないから、念には念を入れて、ということらしい。
JR東海の計画によると、中央新幹線の途中駅は営業職員を置かず、予約はインターネットなどで、発券と改札は自動化する予定である。保安員については未定だった。本当は、今のうちに些細なトラブルがあった方が良い試験になると思う。それは今後シミュレーションすることになるだろう。何しろ開業予定まで12年もある。
何事も実際に経験してみないと分からない。それは体験する側も、体験の場を用意する側も同じだ。
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