ソニー「若返り戦略」の不安と期待(2/4 ページ)
ソニーがハイレゾ対応のウォークマンの新モデルとヘッドホンの新シリーズを発表した。若者層を中心ターゲットとしたその戦略に筆者は不安と期待を持っている。それは……。
ハイレゾという新技術がもたらした好機?
近頃耳にする新しい技術「ハイレゾ」とは、「ハイレゾリューション(高解像度)」のことで、 その「ハイレゾ音源」というものは、スタジオで録音したマスターが持っている情報量により近い高解像度を実現し、CDよりもさらに多い情報量によってCDでも再現できない音のきめ細かさと臨場感が得られるという。
そのハイレゾ対応のスマートフォンも既に数機種登場しているが、このためにわざわざ機種変更をするのはコストとタイミングの問題もある。そこで、すぐに試したいなら音楽プレイヤーの出番だ。ニュースリリースで伝えられたアンケートの結果 によれば、「ハイレゾの認知率は約4割。20代男性では約7割」だという。やはり他の年代より数値は高く、これは好機と言えるかもしれない。ただ、気になるのが全体平均では「<他人に詳しく説明できるレベルで知っている>人は8.8%、<他人に説明はできないが、知っている>人は27.7%と、あわせて36.5%」となっており、年代別では詳細が示されていない。20代男性の7割の中味も言い換えれば「何となく知っている」レベルが大半だと思われる。
若者は「ハイレゾ」に興味を持つのか?
前掲の調査はあくまで「認知度」を調べたもので、購買意向を聞いたものではない。そもそも、若者はハイレゾに、もっと平たくいえば今以上の音質に対するニーズがあるのだろうか。
ニーズという言葉の意味を正確に表すなら、「現状と理想的な状態のギャップ」である。つまり、ニーズの有無は若者が現在聴いている音質に対して、もっと理想的な音質を求めているのかがポイントだ。ニーズは「不」という字に置き換えることもできる。現在の音質に「不満」や「不足」「不十分」などと考えているかということである。
ソニーのウォークマンAシリーズとh.earのキャンペーンサイトを見てみると、「ゾクゾク ハイレゾ」「圧縮しない、この快感。」というキャッチコピーがまず示されている。現在スマホや携帯音楽プレイヤーに用いられているMP3などのフォーマットは、データ圧縮によってデータ容量を食わないようにしているが、それをしていないからこそ音質が良いということだろう。しかし、そのコピーが若年層に刺さるかはかなり疑問だ。日々圧縮された音を聴いて慣れきっているし、そもそもそれが圧縮されているということの認識も低いだろう。ハイレゾはCD以上の音質が売りだが、若年層でも特に10代などは、そのCDの音に接していた期間も短いため覚えていないだろう。そこに「不」の字、ニーズはないように思われるのが最大の不安だ。
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