どのように成層圏から地球と「Audi TT」を撮影したのか:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
宇宙を大々的に活用したAudiの新車プロモーション。そのために実際、成層圏まで気球を打ち上げたプロジェクトメンバーに話を聞いた。
あらゆる角度からシミュレーション(花田氏)
気球に関しては、放球→上昇→落下→回収という一連の流れがあります。それぞれに成功の秘けつがあるのですが、特に放球地点の設定は難易度が高い作業です。通常は落下後の回収地点を決めた上で、当日の天候予測と過去4年間の実績から気球の飛行経路を逆算して、放球地点を複数設定し、監督官庁に申請をする必要があります。しかしながら、放球申請は約1カ月前にする必要があるため、当日の天候予測などを精度良くすることはできません。
今回は落下地点を茨城県・大洗沖10キロメートルの海上としました。過去の知見からさまざまなシミュレーションを行い、結果として放球地点を12カ所設定しました。シミュレーションの際には、上空の気流を考慮する必要があります。高度1万5千メートルくらいまではジェット気流と言われる東向きの風が吹いているのですが、そこを超えると今度は成層圏偏東風という逆向きの風になります。こうした風の動きをすべてシミュレーションして放球地点と飛行経路を設定しました。
そして実際の放球時刻の12時間前に当日の天気予報なども踏まえて、12カ所の中から1カ所に絞り込み、最終的に羽田空港の管制官に申告を行い、放球を行いました。放球後は、気球についているトラッキングモジュールのGPS信号を追って、気球の位置と高度をモニタリングしていきます。そして、高度3万キロメートルを超えたあたりで、気球内部のヘリウムガスが気圧膨張を起こして気球が破裂し、パラシュートで自由落下するようにしました。
今回は回収地点を海上に設定したこともあり、地元の漁船の協力を得て、落下してきたモジュールの回収を行いました。裏話ではありますが、普段乗りなれていない人は漁船に乗ると船酔いがひどくなります。今回は回収メンバーもひどい船酔いに苦しみながら、何とか回収しました(笑)。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2015」企画委員会代表。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。
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