東京モーターショーで見ても無駄なクルマは?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
今週末から「東京モーターショー」が開催。参加者の皆さんにぜひ見てもらいたいもの、見ても無駄なものをお伝えしたい。
プラグインハイブリッドと小型エンジン
環境負荷と実用性、安全性のバランスが現状で最も優れているのはプラグインハイブリッドだ。トヨタはプリウスPHV(プラグインハイブリッド)を販売する際、「充電プリウス」というキャッチコピーを使った。しかしこれはプリウスPHVの特徴を正しく表していない。プラグインハイブリッドは、基本的には電気自動車の仲間だ。電池があるうちは電気だけで走り、電池が切れるとエンジンが始動して普通のハイブリッドになる。
つまり、電気自動車の致命的欠点である電池切れが起こらないクルマなのだ。自宅でゆっくり充電したら、あとは電池残量を気にせずに走り、電池が切れたらガソリンがある限りハイブリッドとして走行できる。ハイブリッド走行の際の燃費もプリウス同等というわけだ。ユーザーには何のリスクもなく、電気で走った分はガソリンよりはるかに安いエネルギーコストで済む。初期費用をランニングコストで回収できるかというそろばん勘定を別にして、日本に住んでいて、環境負荷低減に貢献したいのならプラグインハイブリッドが現実的だ。
これまで選択肢が少なかったプラグインハイブリッドだが、ここ最近欧州メーカーがこぞってプラグインハイブリッドモデルをラインアップに加え始めている。東京モーターショーで注目すべきパワープラントは第一にプラグインハイブリッドだ。
もう1つ、重要なユニットがある。現在、全世界の販売台数合計は年間1億台だ。トヨタとフォルクスワーゲンとGMはそれぞれ全世界シェアの10パーセントを販売している。今後大きなポテンシャルを持っているのはインド、ASEAN、中国の3地域だ。
中国経済はいま減速中だが、一度モータリゼーションが始まった国で、それが逆行した例は過去にない。クルマは一度知ったらそう簡単に元に戻れない。失速した経済がどの程度で回復するかは分からないが、経済は必ず循環するので、いずれ大きな上昇トレンドにはいるだろう。日本は人口1億人に対して年間500万台が売れている。中国の14億人が同じことになったら、7000万台が売れることになる。インドの人口は12億人、ASEANは6億人である。こちらは合わせて9000万台になる。
それは遠い未来だとしても、現在の中国での販売実績は2300万台。モータリゼーションが本格的にスタートしたのが2000年ごろだったので、たった15年で新たに2300万台に成長した直近の前例があると言える。インドとASEANが同程度の成長をすれば、15年後に3000万台のクルマが売れる計算になる。現在の世界販売台数の3分の1である。
では、インドとASEANでプラグインハイブリッドがバカ売れするだろうか? そんなことは起こらない。現在それぞれ300万台マーケットであるインドとASEANで売れているのは70万円の小型車なのだ。
つまり、燃料電池だ、電気自動車だ、プラグインハイブリッドだと騒いでいるのは先進国の一部でしかない。これから爆発的に増える自動車のほとんどは小排気量のガソリンエンジンであり、本気で環境負荷を考えるなら小排気量ガソリンエンジンの環境性能を上げるしか出口ない。燃料電池も電気自動車も先進国の限られた富裕層が購入するだけで、地球環境全体へのインパクトは微々たるものなのだ。
地味かもしれないが、これからの自動車社会をしっかり見据えた実のあるクルマにこそ、本当の未来は宿っているのだ。
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