あらゆる電子機器のプリント基板保護膜で躍進、太陽HD社長の「理・響・躍」(5/6 ページ)
「アイディール・リーダー」という新しい考え方を提唱する永井恒男氏が、電子機器のプリント基板の保護膜で成長している太陽ホールディングスの佐藤英志社長に話を聞いた。「非常識」に見えて極めて合理的な経営判断とは……。
なぜできた? デフレ時代の「値上げ」
永井: まさに値引きの話が出てきたところで、デフレの中あえて製品価格の値上げに踏み切った経緯を聞かせてください。
佐藤: 大前提としては2013年に業界2位の台湾企業を買収したことが大きかったですね。これは熾烈(しれつ)な価格競争という環境から脱したというのが理由となりますが、それ以上に円高という逆境下にあって、「シェアを持っている製品は適正なレベルまで価格を見直そう」と徹底的に取り組んだんです。
永井: 買収があったとはいえ、当時はまだまだデフレのまっただ中でした。「値上げ」という言葉も相当インパクトが強かったはずです。先ほどのお話にあったように、常に価格競争や技術の変遷の中にあって、「適正」を見定めるのもバランス感覚が求められますね。
佐藤: おっしゃるとおりです。ずいぶん責められましたし、ギリギリのラインを見定めて価格は設定しました。あまり度が過ぎると取引先からいつの間にか敬遠されている、ということにもなりかねません。そのためにも感度とコミュニケーション能力を磨いておく必要があるということだと思う。
永井: こんな時代に値上げなんて、非常識だ! と内外から反発があったでしょうね。なぜその決断ができたのでしょうか?
佐藤: 会社の規模も全く違いますからね。とはいえ、私からするとセオリー通りで極めて常識的な判断ではあるのですが。圧倒的なシェアを確保し、調達源が限られていているわけですから。だから、値上げそのものよりも、「どのくらいであれば、相手は許容してくれるのか」というレベルの見極めですね。
永井: なるほど・・・・・・極めて合理的で「理」に適った判断であったわけですね。しかし、多くの部品メーカーが、なかなかそういう判断には至れていないようにも感じられます。行動心理学でいうところの「認知バイアス」に縛(しば)られがちですからね。
人間は常に認知バイアスの影響を受けるので、アンカーリング(=初期値、基準)に縛られます。判断を行う時に基準(アンカー)が判断に影響してしまうんですね。でも、佐藤さんは自分や、社員が今どんな「基準」に立っているか、ということを極めて冷静に見ていて、それを能動的にずらすことができるんだと思いますね。
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