スーチー派が勝っても、ミャンマーが“変われない”理由:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
ミャンマーで、5年ぶりに総選挙が実施された。地元メディアが「アウンサン・スーチー党首率いる最大野党が優勢」と伝えているので、現地の経済発展が期待されるが、事はすんなりと進むのだろうか。筆者の山田氏は難しいとみている。その理由は……。
軍政の影響力が蔓延
最大の障害は、軍政の影響力が今も根深く政治と経済に蔓延(まんえん)していることだ。事業計画や規制緩和などには、国軍関係者や、軍政時代から共に経済的権益をむさぼってきたいわゆる“政商”が今も強い影響力をもつ。国軍も企業を抱えている。その構図は、軍政時代から大きくは変わっていない。
前出の友人も事あるごとに政商を諸悪の根源であると指摘していたが、最近、英BBCのニュースに登場していたミャンマー在住の米国人弁護士も「この市場に侵入するには国軍と政商が立ちはだかる」と語っている。またミャンマーに進出しているある日本企業の担当者は、閣僚とのいわゆる“コネクション”ができなければ参入は難しかっただろうと私に語ったことがある。
ちなみに政商と呼ばれる人たちには、いまだに米国の経済制裁リストに名を連ねている者も少なくなく、外国企業が彼らと組んでビジネスをするにも、さまざまな制約が出てくる。それでも、国軍と、軍部に守られた政商らが引き続き経済を牛耳っているため、特に事業が大きくなればなるほど彼らを避けて通ることはできない。
その「立ちはだかる」壁を超えるには、例えば、汚職が介在することになる。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの調査で、ミャンマーが汚職ランキングで2014年、174カ国中156位になったのも納得だ。
こうした軍政的な慣例は、今回の選挙で誰が勝利しても、すぐに変わることはなさそうだ。ノーベル平和賞を受賞している民主活動家のアウンサン・スーチー率いる最大野党の国民民主連盟(NLD)が大勝しても、である。なぜなら、国軍は憲法のお墨付きを得て、政治・経済を支配していると言えるからだ。もっと言えば、国軍は周到にそういう憲法を作った上で民政移管を行っているため、現時点ではもはやどうすることもできないのである。
現在の憲法は、民政移管前の軍事独裁政権時代に改正されて、国民投票で93%というあり得ない賛成を得た(ということになっている)。現憲法の第141条によれば、連邦議会議員数の25%(4分の1)が国軍にあてがわれているために、75%以上の議員による賛成が必要な憲法改正はほぼ実現できない。
つまり国軍や、軍関係者と既得権益を分け合う政商にとって、都合の悪い憲法改正案は基本的に拒否されることになる。ついでに言うと、防衛大臣や国務大臣、国境大臣といった重要な閣僚は、憲法で国軍司令官が指名することになっている。
ちなみに選挙前の6月には、憲法第436条で規定された憲法改正に必要な議会議員数を75%から70%にする改憲案が採決されたが、もちろん反対票多数で否決されている。これを改正するのは至難の技であり、しばらくは変わらないと見ていい。
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