スーチー派が勝っても、ミャンマーが“変われない”理由:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
ミャンマーで、5年ぶりに総選挙が実施された。地元メディアが「アウンサン・スーチー党首率いる最大野党が優勢」と伝えているので、現地の経済発展が期待されるが、事はすんなりと進むのだろうか。筆者の山田氏は難しいとみている。その理由は……。
「私は大統領を超えた存在になる」と失言
こうした軍や政商の支配がなくならない限り、本当の意味でミャンマーを「最後のフロンティア」とは呼べないだろう。ただこうした希望なき状況にあっても、国民は建国の父アウンサン将軍の娘、アウンサン・スーチーに希望を託している。
現在70歳のスーチーは、独裁政権時からミャンマーの民主化を求めて声を上げてきた。3度にわたって自宅軟禁に処されながらも、国を背負って立つ存在として期待され続け、2012年には補欠選挙で連邦議会議員となった。
今回の選挙で国民の多くは、スーチーのNLDが過半数以上を得て、政権交代を実現し、国軍の影響力を削いでくれるよう期待している。期待しすぎるあまり、スーチーが選挙後に暗殺されるのではないかという懸念が一部で広がったほどだ。
だがスーチーは外国籍の子どもをもつ(元夫が英国人)ため、憲法の規定で大統領にはなれない。それでも、側近を大統領に据えることでいわゆる院政を敷くことはできる。
しかし、選挙直前の記者会見でスーチーは余計なことを述べた。「私は大統領を超えた存在になる」と失言したのだ。つまり、NLDが政権を取れば、大統領に誰かを据えて実質的に自分が実権を握り、統治を行うと宣言した。ただこれが、「大統領を超える存在はない」と規定する憲法第58条に違反する発言だと早くも批判の声が上がっている。
NLDが過半数を獲得し、大統領を輩出することになっても、この発言によって大統領の正当性が争われる可能性も出てくる。極論すれば、NLD出身の大統領はスーチーの操り人形であり憲法に反する、という強引な判断をされることになりかねないのだ。この理論には無理があると思われるかもしれないが、なにせ相手は、1990年の総選挙でNLDに大敗を喫したのに、選挙結果を勝手に無効にした軍部である。こんな因縁も、当然あり得るのだ。
しかも、憲法は40条で、必要ならば政権を奪取してもいいとクーデターの権利を軍部に与えている。つまり軍部がすべてをひっくり返すことも憲法で許されているのだ。NHKの番組『クローズアップ現代』が街頭インタビューで、「軍部がクーデターを起こさないか心配です」と語るミャンマー人のコメントを放映していたが、その言葉の裏にはこの憲法の存在がある。
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