決戦兵器「エヴァンゲリオン」は山陽新幹線を救えるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
11月7日、山陽新幹線に独特な仕様の電車が現れた。かつて東京駅にも発着していた500系電車が、アニメ作品「新世紀エヴァンゲリオン」の主要メカをモチーフに塗装された。このコラボレーションは山陽新幹線にとって大きな意味がある。
500系とエヴァンゲリオンの共通点
山陽新幹線は、近畿対北九州、山陽地区対東京で航空機との競争にさらされている。そこでJR西日本は独自に山陽新幹線のスピードアップを実施した。その象徴が500系電車だった。JR西日本が独自に開発し、新幹線車両として初めて時速300キロメートルの営業運転を実施した電車だ。ただし、その最高速度は山陽新幹線内にとどまった。当時の東海道新幹線では時速270キロメートルまでしか出せなかった。
500系電車は、当初は山陽新幹線内の運行で、のちに5年ほど東海道新幹線に乗り入れた。ドイツのデザイン会社が手掛けた独特の外観は鋭角的でカッコ良く、鉄道ファンだけではなく、多くの人々を魅了した。しかし、東海道新幹線の主要顧客であるビジネスユーザーにとって「車内が狭く、頭上に圧迫感がある」「網棚に大きな荷物を載せられない」と不評だった。
高性能でありながら利点を発揮できず、最終的には「他の車両と座席数が異なり互換性がない」という理由で、500系は東海道新幹線から追い出されてしまう。こうした悲壮感は、巨大な力を持ちつつも恐れられる戦闘用ロボットに共通する。そんな風に考えると、500 TYPE EVAとエヴァンゲリオンには共通点も感じられそうだ。
人類にとってエヴァンゲリオンが決戦兵器だったように、山陽新幹線にとって500系電車は決戦兵器だった。そして、次にJR西日本が投入した決戦兵器は「700系レールスター」だ。これはJR東海と共通仕様の700系電車をベースに、山陽新幹線専用の独自仕様とした車両だ。1995年の阪神淡路大震災で壊滅した山陽本線が復旧した後、低迷する状況を打開するために運行を開始した。
700系レールスターは編成を8両と短くし、普通車指定席は2列+2列の座席として、東京直通仕様より居心地を改善した。ダイヤは「ひかり」タイプとして高速化。「ひかりレールスター」として売り出し、ついに震災以降、航空機に奪われていた近畿〜北九州間のシェアを奪還する。このストーリーもエヴァンゲリオンに通じそうだ。
東海道新幹線を追われ、第一線の「のぞみ」から引退した500系も8両編成と短縮されて「こだま」の任に付いている。700系レールスターの志を同じくして、引き続き山陽新幹線の決戦兵器として戦っている。
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