自動車関連税制の論理性は見直すべき:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
海外諸国に比べても割高な日本の自動車関連税に、さらに新たな税が加わるかもしれない。もはや法律の改悪でしかない。今回はその制度の歪みについて考えてみたい。
他国に比べて高いことで批判が集まっている日本の自動車関連税に、またもや新たな税が加わるかもしれない。総務省は2015年12月10日を目処にまとめる平成28年度与党税制改正大綱に、燃費性能に応じた新たな課税制度を盛り込む調整を始めた。この改正案が通れば、平成29年4月から課税が開始される可能性がある。
これは平成32年度燃費基準を指標に、6段階の税率で課税するというもので、指標より25%以上良好なら課税なし。25〜20%で0.6%。20〜15%で1.2%、15〜10%で1.8%、10〜5%で2.4%、それ未満の場合、3%を新車購入時に課税するものだ。しかしこの税制はあまりにも筋が悪すぎる。今回はその制度の歪みについて考えてみたい。
不信が渦巻く課税の背景
背景には、消費税の10%への引き上げを機に「自動車取得税」が廃止されるということがある。狙っているのはこれによる税収減の補てんだ。しかし、消費者にしてみれば、本来消費税率のアップとトレードオフになる話であって、消費税は消費税として税率アップしつつ、引き換えに廃止するはずだった自動車取得税の補てんを画策されるのはどう考えても納得がいかない。
自動車取得税は、元はと言えば、贅沢品に対して課せられていた物品税の流れを引くもので、生活必需品以外の贅沢な嗜好品に対して課税することで、担税力の高い層から税収を得るための方策であった。判官贔屓的な日本の社会では「金持ちから取る」という方針は受けが良く、特に高度経済成長期までは、それなりに機能していた税制である。
しかし、この贅沢品の線引きは難しい。時代とともに贅沢の基準が変わるからだ。少なくとも現在の感覚では、よほどの大型車かブランド性の高いクルマ以外は贅沢とは考えにくい。特に地方在住で日常の足として一人一台という生活環境ではなおさらだ。どうしても物品税的な見地から課税するというのであれば、車両価格で区分けすべきだろう。300万円なのか500万円なのか1000万円なのか、そこは議論の余地があるだろうが、どう考えてもCセグメント以下は贅沢品とは考えにくい。
取得税はさまざまな点で税の根拠にも疑義が付いてきた。例えば、購入に対する課税としては消費税があり、取得税は二重課税の疑いが強い。贅沢品課税という部分で存在価値を主張するなら、自動車以外の贅沢品の物品税が既に廃止されていることと整合性が取れないのだ。
また道路利用の受益者負担という根拠についても、重量税との二重課税の疑いが濃厚な上、道路特定財源として目的税になっていた当時ならともかく、一般財源に組み入れられた現在、受益者負担と言うには使用目的が異なっていてこちらも正当性に欠ける。
もちろんエコを優遇する税制はあってもいいと思うが、税体系全体として整合が取れていない状態で、あっちにもこっちにもエコに対する優遇制度があると、社会貢献度に対する妥当性も疑わしくなってくるのだ。例えば、車齢13年以上のクルマに課せられる自動車税の追加課税なども、全体の中でその税率が妥当なのかどうかは誰がどうやって考えているのか。アメとムチがバラバラに設計されているので、妥当かどうかがさっぱり分からない。税の根拠が説明できないという制度には問題がある。何故ならば国民に義務を強いる制度であり、破れば罰則があるからだ。そういう制度は論理的に納得できる設計が為されているべきなのは当然だろう。しかも問題は課税根拠だけに限らない。
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