ガンダム、ジェット機、スターウォーズ……南海電鉄「ラピート」の革命:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
南海電鉄は11月21日から、特急ラピート「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」号を運行している。元になった車両は関空特急ラピート専用車「50000系」だ。鉄道車両としては異形のデザインに驚かれたかたも多いだろう。この電車は、20年前に登場し、鉄道車両のデザインに転機をもたらした革命児だ。
「関空アクセス競争」がデザイン革命を生んだ
どうしてこんなデザインが生まれたか。直接的な理由は、車両のデザインを自社の鉄道技術者ではなく、建築家の若林広幸氏を起用したからだ。既存の鉄道車両の概念にとらわれない、まったく新しいデザインを実現するために、専門外のデザイナーを起用した。奇しくも同じ時期、JR九州も水戸岡鋭治氏を起用して787系電車や883系電車を作っている。
では、なぜ、南海電鉄は自社の看板特急のデザインを外注したか。その理由は、関西空港アクセス特急という宿命にある。関西国際空港にはJR西日本も乗り入れる。当然ながら空港アクセス特急を運行するだろう。JR西日本はライバルとしては巨大だ。大阪都心と関空のアクセスだけではなく、京都も視野に入れる。新幹線と接続すれば広範囲から関空へ輸送できる。
これに対し南海電鉄は営業範囲が狭い。ターミナルは難波しかない。自社以外からは地下鉄から乗り換えていただく範囲のお客さまがメインターゲット。もっと集客しようと思えば、JR西日本を上回る要素が必要だ。それは運賃の安さだけではなく、強烈にインパクトを与えるような。その要素の1つとして、「分かりやすいカッコ良さ」と、それをきっかけにサービスに注目してもらうという戦略が打ち立てられた。あえて言えば、「隣の電車より目立つ」という機能を重視した。
本来、鉄道車両には飾りは必要ない。クルマのように個人で所有できる乗りものには外観デザインも重要だ。しかし鉄道の場合は「デザインがいいから」といって路線を選ぶ人はほとんどいない。運賃が安いか、速いか、乗り心地は快適か、という要素のほうが重要だ。並行して走っている路線は、たいてい運賃とスピードで競争している。運賃で競うためには車両コストを下げたい。飾りはいらない。スピードで勝つためには性能を上げたい。乗り心地で勝つためには内装にコストを割きたい。外観に回すコストはない。
南海電鉄の場合もそうだ。JR西日本に勝つために運賃とスピードで有利に立ちたい。乗り心地も重要。それだけではなく、さらに勝ち要素がほしい。「乗ってみたくなる」「気になる」そういう電車を作る必要がある。そこでインパクトのある車両デザインが効いてくる。
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