大井川鐵道に『きかんしゃトーマス』がやってきた本当の理由:杉山淳一の時事日想(1/6 ページ)
ファンの「いつかは日本で」の願いが叶った。2014年7月2日、大井川鐵道が『きかんしゃトーマス』の試乗会を開催。実際の鉄道でトーマスが運行したのは、英国、米国、オーストラリアに続いて4番目。アジアでは初めて実現した。なぜトーマスが日本で走り始めたか。表と裏の理由を明かそう。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
ファンの「いつかは日本で」の願いが叶った。
『きかんしゃトーマス』は英国発祥の幼児向けテレビ番組だ。原作はウィルバート・オードリーの『汽車のえほん』である。機関車のボイラーの先端に顔があって、意思を持ってしゃべる。主人公は青い小型機関車のトーマス。親友のパーシー、年寄りの大型機関車エドワード、力持ちのゴードンなど、多数のキャラクターが登場する。舞台は英国の架空の島「ソドー島」だ。線路は英国本土の路線とつながっている。
日本では1990年からテレビで放送され、大人から子どもまで人気が広がった。当初は鉄道模型を動かして撮影された。2014年現在はCG作品に変わったが、模型時代の雰囲気を残しつつ、リアリティを増している。その映像の面白さは大人が見ても興味深い。おもちゃやキャラクターグッズも大人気だ。なにしろ模型が元になってるだけに、おもちゃも「実物そっくり」というわけだ。
題材が蒸気機関車などの鉄道風景なので、世界各地でトーマスをあしらった遊覧鉄道が造られている。英国では旧国鉄の保存鉄道ウォータークレス線で、本物の蒸気機関車を改造したトーマスや仲間たちが走っている。他に、オーストラリアの観光鉄道ジグザグレイルウェイ、米国はペンシルバニア州の観光鉄道ストラスバーグ・レイルロードが走らせている。
日本のトーマスファンもそれは承知。いつかはそこでトーマスに乗りたい。でも、日本だってまだSLは走ってる。日本でトーマスが走ればいいな。誰もがそう思っていた。トーマスファンだけではなく、日本でトーマスの版権を管理するソニー・クリエイティブプロダクツも、多くの鉄道関係者も。
日本の大井川鐵道でトーマスが走り始めた理由は二つの側面がある。「物語」と「ビジネス」だ。ファンの気持ちを大切にして、ビジネスとしても成功させる。キャラクタービジネスとしては大成功となった。大井川鐵道によると、運行日の予約はすべて満席とのことだ。
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