大井川鐵道に『きかんしゃトーマス』がやってきた本当の理由:杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)
ファンの「いつかは日本で」の願いが叶った。2014年7月2日、大井川鐵道が『きかんしゃトーマス』の試乗会を開催。実際の鉄道でトーマスが運行したのは、英国、米国、オーストラリアに続いて4番目。アジアでは初めて実現した。なぜトーマスが日本で走り始めたか。表と裏の理由を明かそう。
すべてのトーマスファンのために……トーマスが日本に来た理由
表の理由として、トーマスファンのお子さんがいたら、こう説明してあげてほしい。
「トーマスは、ヒロに会いに来たんだよ」と。
大井川鐵道のトーマスは静岡県島田市の新金谷駅と静岡県川根本町の千頭駅を往復する。その千頭駅構内に「ヒロ」がいる。大井川鐵道のヒロは、2014年3月22日にお披露目された。トーマス運行開始の約4カ月前だ。
ヒロは2010年に公開された劇場版『きかんしゃトーマス 伝説の英雄』の登場人物(機関車)だ。日本製という設定で、ソドー島に鉄道が建設されたときから働いていた。しかし映画では故障したまま、長い間放置されていた。トーマスと仲間たちは「ヒロを修理し、再び走らせよう」と奮闘する。
この作品の中で、ヒロが日本に帰るときにこんなやりとりがあった。
「トーマスも日本に遊びに来いよ」
「必ず行くよ」
先にヒロを仕立て、あとからトーマスが走り出す。つまり『きかんしゃトーマス 伝説の英雄』で約束された場面を大井川鐵道で再現した。トーマスは約束通りヒロに会いに来たというわけだ。なんと粋な演出ではないか。
大井川鉄道の「ヒロ」は千頭駅で静態保存(稼働しない展示保存)されていた9600形を改造した。ちなみに原作の「ヒロ」のモデルはデゴイチことD51形。炭水車にも「51」の文字がある。形式は違うけれど、どちらも日本製大型機関車で、片側に大きな動輪が4つあるという仕様は共通する。ヒロの雰囲気にピッタリだ。
もし大井川鐵道のトーマスに乗ったり、見に行ったりする機会があるなら、その前にぜひ映像作品の『きかんしゃトーマス 伝説の英雄』を観てほしい。千頭駅でヒロとトーマスが並んだとき、より深い感動を得られるだろう。
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