大井川鐵道に『きかんしゃトーマス』がやってきた本当の理由:杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)
ファンの「いつかは日本で」の願いが叶った。2014年7月2日、大井川鐵道が『きかんしゃトーマス』の試乗会を開催。実際の鉄道でトーマスが運行したのは、英国、米国、オーストラリアに続いて4番目。アジアでは初めて実現した。なぜトーマスが日本で走り始めたか。表と裏の理由を明かそう。
きっかけ……なぜ大井川鐵道で実現したか
日本では現在、SLを運行している鉄道会社が7社ある。JR北海道、JR東日本、JR西日本、JR九州、真岡鐵道、秩父鉄道、大井川鐵道だ。このうち、トーマスに似た小型機関車は、JR北海道のC11形、大井川鐵道のC11形とC12形、真岡鐵道のC11形とC12形がある。C11形はトーマスの雰囲気にピッタリ。トーマスなら世界中から集客を見込める。3社とも名乗りを上げたはずだ。では、なぜ大井川鐵道に決まったか。いくつか理由がある。
まず、きっかけを作った役割として、第3の当事者が存在する。京阪電気鉄道だ。きかんしゃトーマスはこどもたちに人気のキャラクターで、鉄道が舞台。そこで日本国内では複数の電鉄会社がラッピングトレインを走らせている。中でも富士急行と京阪電鉄は実績が多い。富士急行は富士急ハイランドにトーマスランドを運営し、トーマスランド号という電車を走らせている。京阪電気鉄道は2006年からラッピングトレインの実績がある。
そして、京阪電気鉄道は大井川鐵道と縁が深かった。大井川鐵道は京阪電鉄から3000系電車「テレビカー」を購入して運行していた。京阪電鉄から3000系が完全引退するとき、3000系の譲渡先の大井川鐵道と富山地方鉄道も共同でお別れイベントを実施している。その縁があって、京阪電気鉄道がソニー・クリエイティブプロダクツに大井川鐵道を紹介した。
関係者によると、ソニー・クリエイティブプロダクツのトーマス担当者にとって、日本での走行は10年来の願いだったという。いくつかの鉄道会社とも話を進めたものの実現に至らず、あきらめかけていた。大井川鐵道といえば鉄道ファンにとっては聖地のような鉄道である。キャラクタートレインを運行してもらえるだろうか、という思いもあったことだろう。
関連記事
- 杉山淳一の時事日想:バックナンバー
- 蒸気機関車は必要なのか――岐路に立つSL観光
かつて蒸気機関車といえば、静岡県の大井川鐵道やJR西日本の山口線にしかなかった。それだけに希少価値があり、全国から集客できたが、現在は7つの鉄道会社が運行する。希少価値が薄れたいま、SL列車には新たな魅力が必要だ。 - 蒸気機関車はどうやって動くの? 夏休みの自由研究は「鉄道」で
夏休みの宿題といえば自由研究。たっぷりある時間を利用して、興味の対象を深く知る良いチャンスだ。もし、まだテーマが決まっていないなら、身近な鉄道をテーマにしていかがだろうか。 - 杉山淳一の +R Style:第55鉄 乗り物いっぱい富士山めぐり(後編)奇想天外なバスに乗る
「富士山周辺へ観光に行くなら、ぜひ乗ってみたいのが「山中湖にいるカバ」。そしてもう一つ見逃せないのが水戸岡鋭治氏デザインの駅だ。今回は「富士山駅」「下吉田駅」を訪れた。 - JR北海道の問題はどこにあるのか。そして解決する方法はあるのか。
列車火災、脱線事故などを発端としたJR北海道の整備ミス問題は収束どころか拡大する一方だ。いま、JR北海道の鉄道を守るために誰が立ち上がるべきか。現場の職員だ。風当たりは強かろう。しかしこれを再生のチャンスとして改革を進めてほしい。 - 地方鉄道とパークアンドライド──観光鉄道を生かせない「アプローチ路線」の機会損失
鉄道とクルマはライバルではない。むしろパートナーだ。地方鉄道では二つの意味で「パークアンドライド」の導入が進んでいる。一つは通勤、もう一つは観光客の誘致だ。実は後者には「中抜け」されるアプローチ線の機会損失がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.