環境保護活動とビジネスは共存できる――パタゴニアの辻井隆行支社長(1/6 ページ)
アイディール・リーダーズの永井恒男Founderが、優れた決断がビジネスを成功に導いているケースを聞くシリーズ。第3回目はアウトドアブランド「パタゴニア」の辻井隆行支社長に話を聞いた。
アイディール・リーダーズの永井恒男Founderを聞き手に、一見非常識な、しかし深く話を聞くと、優れた決断がビジネスを成功に導いているケースを聞くシリーズ。第3回目はアウトドアブランド「パタゴニア」の辻井隆行支社長にユニークな会社経営と、環境保護活動への取り組みを普段から親交のある永井氏と語ってもらった。環境とビジネスという、一般的には相反する要素をパタゴニアでは有機的に連携させて、社員のモチベーションや業績の向上につなげているのだ。その取り組みから学べることは多い。
パタゴニア日本支社長 辻井隆行(つじいたかゆき)
1968年生まれ。デンソー勤務後、早稲田大学大学院修士課程修了。その後、シーカヤック専門店でインストラクター/ガイドを務める。1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア渋谷ストアに勤務。2000年に正社員となり2009年より現職。03年と09年にそれぞれ45日間の休暇を取得し、グリーンランド、パタゴニアに遠征してシーカヤックと雪山滑降を行うなど、自身もアウトドアスポーツに親しむ生活を続ける。
ひたすら自分たちが必要とするものを最高の品質で作る
永井: パタゴニアといえば高級アウトドアブランドとしてよく知られています。一方で環境保護への取り組み――特にそれをどうビジネスと両立させているのか、というのはまだ知らない人が多いのではないでしょうか?
辻井: 分かりやすいエピソードとして、1950年代まで遡(さかのぼ)りましょう。もともとパタゴニアは、クライミングのためのカラビナやピトン(岩場に打ち込んで体を確保するロープを通す杭。ハーケンとも言う)を作っているシュイナード・イクイップメントという会社でした。そこから発展してアウトドアウェアも作るようになり、そちらをパタゴニアと名付けたんです。
そのころから一貫しているのが、「アウトドアを楽しむ自分たち自身が最初の顧客である」という姿勢です。まずは自分たちが一番必要とするものを作ろうと。もし市場になければ求める品質を満たしつつ、それを生みだしていこう――そういう発想が根底にあります。
岩場に一定の間隔で打ち込んで行くピトンもその1つだったわけですが、かつてその素材は柔らかい鉄でできており、1回打ち込むと放置されていました。引き抜くと形が崩れてしまって、もう一度使えるような素材ではなかったからです。結果、人気のある岩壁には無数の軟鉄ピトンが残され、景観も損ねていたんです。
そこでパタゴニア創設者のイヴォン・シュナイナードはピトンを再利用可能な素材で作ろうと、クロモリブデン鋼(鋼鉄)に目を付けました。ピトンが再利用できれば景観も損ねないし、多少コストが上がっても、繰り返し利用できれば元は取れるはず、と。
彼は独学で鋳造を学び、廃品や中古の機材で手製のピトン作りを始めます。試行錯誤の上、完成したピトンは、当時軟鉄製が1本20セント程度で販売されていたのに対し、1ドル50セントと高価なものになりました。しかし、クライマーたちの間で評判となり、注文が殺到したんです。
この原点は、今も受け継がれていて、例えばパタゴニアが生みだした「フリース」も、濡れたら乾きにくいウールや綿に代わる素材を探していたところから生まれました。北大西洋の漁師が着ていたポリプロピレン製の服が暖かく、水に濡れてもすぐ乾くことに目を付けたんです。でも、ごわごわしていて着心地が悪い。それを柔らかく加工したのがフリースなんです。ピトン同様、自分たちが必要だと思ったものを、自分たちが納得する品質で作る、という発想から生まれたものですね。
実は僕たちって「環境に良いから買ってください」という風に言ったことってないんです。「環境に優しいオーガニックコットンでできているから買ってください」ではなく「この製品はオーガニックコットンでできています」と言っているんですね。枯れ葉剤・殺虫剤などの農薬を大量に使い、栽培者(綿花の背丈にあわせて子どもが従事させられることも多い)へのダメージも大きい「コンベンショナルコットン」に比べ環境に優しい、ということももちろん説明はしますが、だから買ってくださいという風には言っていない。
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