環境保護活動とビジネスは共存できる――パタゴニアの辻井隆行支社長(2/6 ページ)
アイディール・リーダーズの永井恒男Founderが、優れた決断がビジネスを成功に導いているケースを聞くシリーズ。第3回目はアウトドアブランド「パタゴニア」の辻井隆行支社長に話を聞いた。
永井: なるほど。あくまで自分たちが必要なもの、品質を求めた結果だ、ということですね。
辻井: 本国では、社内に初めて託児所を作った会社として、また移民労働者保護への取り組みが評価されたりして、一昨年からホワイトハウスに3度も招待されるなど、米国ではパタゴニアの取組みが一定の理解を得ていると感じています。一方で、1988年に進出した日本では、「パタゴニアはクオリティを追っているよね」「自然に優しいんでしょ」といった漠然としたイメージを持たれていて、それによって製品を選んでいただいている方も多いと思いますが、こういったストーリーはもっと伝えていかなければならないなと思っています。
環境問題に対する活動も、まず起点は僕たち自身にあります。当たり前のことですが、僕たちは社会の一員なので、その自分たちが幸せに生きていくために何ができるだろうか、「死んだ地球(=自然が破壊され資源が失われた場所)ではビジネスはできない」といった考えがベースにあります。だから、数ある社会問題の中でも環境問題の優先順位が高いと考えているんです。
環境問題って、自然とか動物のことだっていうイメージが強いと思います。でも、実は「人間の問題」なんです。
永井: 人間の問題。
辻井: そうです。私たち人間がこの先も地球上で他の生命と共に生きながらえていけるかどうか、に直結した話です。日本ではなぜか環境問題とか民主主義を語ると、すぐいわゆる「過激な活動家」のイメージをもたれがちですよね。もちろん一部の活動家のあり方もまた誤ったイメージを助長している面もあるとは思いますが……。けれども市民や国民の生活に影響することは、必要な情報を開示した上で、みんなで決めたほうが良いはずです。環境問題も、自然は人間が生きていくためにも豊かであり続ける必要があるし、でも生活も大事だ、という中でのバランスの問題だと捉えれば、より多くの方々の「自分事」になると思うんです。
最初に紹介した鋼鉄製のピトンは大ヒットしたけれど、岩場が今度は穴だらけになってルートとして使えなくなってきたという新たな問題も起こってきました。その時に下した決断は、ピトン作りを止めて、今度はチョックという岩場のすき間に挟んで使う道具を開発するというもの。「これからは山を汚さない、クリーンなクライミングを行うべきだ」というエッセイと共に当時のカタログでヘキセントリックと名づけたチョックのラインアップを紹介したところ、またお客さんの共感を得ることができたんです。「正しいことをすれば結果は必ずついてくる」「自分が顧客としてイヤなことは変えていかないといけない」といったパタゴニアの原点が改めて確認されたのはこのときだと思いますね。
関連記事
- なぜ給料が二極化するのか? 年収200万円と800万円の人
景気低迷の影響を受け、給料は下がり続けている――。そんなビジネスパーソンも少なくないだろう。では、今後10年間はどうなのか。リクルートで働き、中学校の校長を務めた藤原和博さんに「10年後の給料」を予測してもらった。 - 紙袋をやめて、7万2000円の商品が返却された――パタゴニア、4つのコアバリューとは
厳しい経営環境が続いているが、そんな中でも成功している企業がある。そのひとつが、米国発のアウトドアブランド「パタゴニア」だ。日本上陸以来、売り上げと店舗数を伸ばし続けているが、その背景には何があるのか。日本支社長の辻井氏に話を聞いた。 - あらゆる電子機器のプリント基板保護膜で躍進、太陽HD社長の「理・響・躍」
「アイディール・リーダー」という新しい考え方を提唱する永井恒男氏が、電子機器のプリント基板の保護膜で成長している太陽ホールディングスの佐藤英志社長に話を聞いた。「非常識」に見えて極めて合理的な経営判断とは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.