シリア難民問題から感じる「メディア」への違和感:世界を読み解くニュース・サロン(1/4 ページ)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップが来日した。フランス同時テロ後だったので、日本のメディアはこぞって取り上げたが、筆者の山田氏は一連の報道に違和感を覚えたという。なぜなら……。
世界を読み解くニュース・サロン:
今知るべき国際情勢ニュースをピックアップし、少し斜めから分かりやすく解説。国際情勢などというと堅苦しく遠い世界の出来事という印象があるが、ますますグローバル化する世界では、外交から政治、スポーツやエンタメまでが複雑に絡み合い、日本をも巻き込んだ世界秩序を形成している。
欧州ではかつて知的な社交場を“サロン”と呼んだが、これを読めば国際ニュースを読み解くためのさまざまな側面が見えて来るサロン的なコラムを目指す。
2015年11月25日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップであるアントニオ・グテーレス高等弁務官が来日した。フランス同時テロ後に難民をどう受け入れるのかという議論が世界的に再燃しているタイミングでの来日ということで、日本のメディアもこぞって取り上げた(来日の目的にはUNHCRを通した難民支援を発表した衣料品ブランド、ユニクロとの共同会見もあった)。
今年いっぱいで退任する予定のグテーレス高等弁務官は東京で記者会見に出席し、「日本政府には、特にシリア人の人道的受け入れや日本で再定住する人々を増やすよう行動を求めたい」と語ったと報じられている。さらに「日本社会で難民の認定と融合、受け入れを効果的にする」ために「難民システムに革新的な改善」が必要だとも指摘した。
著者の知る限り、グテーレス氏の来日について、日本の報道はUNHCRトップが日本政府に改善を求めたという話に終始しているようだ。もちろん、日本は今回のシリア内戦に端を発する難民問題に欧州諸国のように寛大な受け入れ表明をしておらず、国際社会の一員としての自覚という意味でも、今後グテーレス氏の指摘するように支援についてきちんとした議論をする必要がある。
しかし、今回のグテーレス氏来日にからむ報道(特に大手新聞)には多少違和感をもった。体制側へのチェック、ともすれば粗探しが報道の役割であるのも分かるし、限られたスペースで情報を取捨選択しているのも理解できる。だがそれでも、グテーレス氏来日の報道は少し偏っているような気がしてならない。
今回のグテーレス氏の来日で、報じられていない情報にはどんなものがあるのだろうか。そういう情報を確認することで、改めてUNHCRは日本をどう評価しているのか、そして日本が難民問題にどう対処しているのかを探ってみたい。
関連記事
- 「テロへの報復は暴力しか生まない」という主張は、“正しい”のか
フランスで起きた同時多発テロを受けて、「暴力が生み出すのは暴力のみ」といった声が出る一方で、「いや、暴力に対しては暴力しかない」という意見も出ている。果たして、どちらの主張が“正しい”のか。 - なぜ「楽天」が世界中で叩かれているのか?
英語の社内公用語化など、グローバル企業への成長を目指して動き出した楽天。だが、本当に必要なのは「国際企業ごっこ」ではない。国際社会に対する社会的な貢献が求められる。 - 世界から「児童ポルノ帝国」と呼ばれるニッポン
衆議院で可決した「児童買春・ポルノ禁止法」改正案。日本では大きく報じられていないように見えるが、海外では大きな話題になっている。規制が強化された格好だが、海外メディアの反応は厳しい。その内容とは……? - 世界は“報復”するのか? 「13日の金曜日」に虎の尾を踏んだイスラム国
「フランス史上最悪」と言われる同時多発テロが発生した。テロが襲った11月13日の金曜日は「歴史的な転換点になる可能性」があり、フランスのオランド大統領はイスラム国への“報復”を断言した。今後の世界情報は……? - 米国では、女性の5人に1人がレイプに遭っているという事実
最近、米国では大学内でレイプ事件がまん延し、政府が対策を迫られるほどの社会問題に発展していることをご存じだろうか。もはや、世界中のどこにいても、レイプの危険性を頭の片隅に置いておくべきなのかもしれない。 - 日本人も要注意、集団レイプ判決から見るインドの闇
最近、インドで発生する集団暴行事件のニュースを日本メディアも取り上げるようになった。事件の背景を追ってみると、根強く残る女性差別が浮き彫りになる。 - スーチー派が勝っても、ミャンマーが“変われない”理由
ミャンマーで、5年ぶりに総選挙が実施された。地元メディアが「アウンサン・スーチー党首率いる最大野党が優勢」と伝えているので、現地の経済発展が期待されるが、事はすんなりと進むのだろうか。筆者の山田氏は難しいとみている。その理由は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.